わたしは、とある里の獣人。
 犬の耳と尻尾がついている種族。
 普通の人間とは違う。

 だからなのか、街から離れた山奥の里で暮らしていた。

 わりと不便。
 火は自力で起こすしかない。
 水は、毎日川まで組みに行かないといけない。

 毎日大変。

 でも、不幸と思ったことはない。

 たくましいお父さんがいた。
 優しいお母さんがいた。

 それだけじゃなくて、おいじいちゃんがいて、おばあちゃんがいて、仲間がいて……
 みんながいた。
 だから、毎日笑顔で過ごすことができた。
 全部全部、満たされていた。

 だけど……ある日、全部が終わった。

 人間が攻めてきた。
 里がどうなったのか……わたしは知らない。

 お父さんとお母さんが逃してくれた。
 絶対に捕まるな、と言われた。

 わたしは泣きながら逃げた。
 走って、走って、走って……

 でも、捕まった。

 わたしを捕まえた人間は……
 ううん、あれは人間なのだろうか?

 確かに、見た目は人間だ。
 でも、中身はまるで別物というか……
 すごく怖い、と思った。

 その人間に捕まって、わたしは奴隷に落ちた。

 痛くて。
 悲しくて。
 寂しくて。
 苦しくて。

 ……そんな毎日。
 私の心はからっぽになった。
 世界を見るから苦しい。
 なら、なにも見なければいい。

 そんな感じで、なにも考えないようにして……

 でもそんなある日、フェイトとソフィアが助けてくれた。
 お父さんとお母さんのような人だった。
 強くて、優しい。

 フェイトは太陽のような人。
 強いだけじゃなくて、心に光を当ててくれて、導いてくれる。

 ソフィアは月のような人。
 優しく静かに、みんなを見守ってくれている。

 そんな印象を抱いて……
 それと、お父さんとお母さんのように見えた。

 フェイトとソフィアはお父さんとお母さんじゃない。
 まったく別の人間。
 それなのに同じに見たら失礼。
 不愉快に思われるかもしれない。

 だから、一緒にいたらいけないと思っていたんだけど……
 そんなことはなかった。
 フェイトとソフィアは、わたしと一緒にいたいと言ってくれた。

 そんな二人の笑顔は、今でもハッキリと思い出すことができる。
 ぽかぽか。
 温かいおひさまのよう。

 わたしは……もう無理だった。
 二人の優しさに甘えずにはいられなくて……
 新しいお父さんとお母さんになってほしいと、そうお願いをして……

 わたしは幸せ。
 全部、失ったと思ったけど、でもそんなことはなくて……
 また新しく、大事なものを手に入れることができた。

 心が温かくて、ぽかぽか。

 おとーさんとおかーさんの匂いを感じて、わたしはにっこりと笑う。