物心ついた時、ゼノアスは薄汚れた格好で汚い路地にいた。
 持ち物は剣が一つ。
 それだけで他になにもない。

 親の顔は知らない。
 友もいない。
 一人だけ。

 スラムは戦場と変わらない。
 気を抜けば死ぬ。
 心を許せば死ぬ。
 油断すれば死ぬ。

 常に死と隣合わせの生活だ。
 ちょっとしたことで血が流れて、暴力は日常茶飯事で、笑顔があふれたことなんて一度もない。
 毎日毎日血が流れて怒号が飛んでいる。
 昨日は見かけた顔が消えているなんて当たり前だ。

 そんな中で子供が生きていくことは難しい。
 生きるために他人の支配を受け入れて、駒となるしかない。

 それはそれで、人を人と思わない扱い。
 地獄のような日々が待っていて、生きているだけ、という状態になってしまう。

 ただ、ゼノアスは違った。
 他人の傘下に入ることはない。
 支配を受け入れることはない。
 剣を手に、力で道を切り開いた。

 斬る。
 斬る。
 斬る。

 邪魔になる者は全て切り捨てた。
 それだけの力を持っていた。

 こうして、ゼノアスは生を手に入れた。
 他者に食いつぶされることなく、理不尽に押しつぶされることもなく。
 己のしたいように道を歩いて、生きていくことができた。

 その際、黎明の同盟から声をかけられた。
 並外れた力を持つために目をつけられて、しかし、敵対する道ではなくて仲間になってほしいと言われた。

 ここは地獄。
 スラムを抜け出せるのなら断る理由はない。
 ゼノアスは誘いを受けて、黎明の同盟の一員となった。

 ただ、彼の生きる道は変わらない。
 今度は黎明の同盟のために人を斬ることになった。
 スラムにいた時と比べると色々な面が改善されたものの、結局、剣を振ることは変わらない。

 ただ、それに不満を覚えているわけではない。
 むしろ望んでいた。
 ゼノアスは剣を振り、戦い続けることを願っていた。

 なぜなら、そうして生きてきたから。
 剣を振り、戦う。
 そうし続けてきたからこそ、今更、他の道を歩むことはできない。
 それは己の今までの生を否定するようなものだ。

 故に、ゼノアスは戦い続ける。

 戦いことが己の生。
 剣を振り、力を示すことが存在意義となる。
 そうすることで、今ここにいる、と世界に叫ぶことができる。

 不器用で。
 歪んでいて。
 でも、他に生きる道を知らないのだ。
 そうするしか知らないのだ。

 だからこそ、ゼノアスは強敵を求める。
 戦うことで己を証明して、存在意義を求めて、生を実感することができる。
 なれば、弱者を相手にしても仕方ない。意味がない。
 己と渡り合うことができる強者でなくてはいけない。

 命を賭けた戦いをして……
 そこで初めて、生と死の両方を感じることができる。
 そうして命を覚えることができる。

 悪意はない。
 もちろん善意もない。
 あるのは生を求める渇望と、その意味を問いかける願いだけ。

 剣を取り。
 剣を振り。
 今までそうしてきたように、これからもずっと同じことを続ける。
 過去を振り返ることなく、前だけを見る。突き進んでいく。

 いつか倒れるその日まで。

「俺は……戦う」