レナの両親は黎明の同盟の一員だ。
 活動を通じて知り合い、仲を深めて、そして結婚。
 レナが生まれることになった。

 物心ついた時から黎明の同盟の知識に染まっていた。
 だから、黎明の同盟が正しいと信じるのは当たり前。
 その言葉を疑うことは欠片もない。

 その後、なにげなく持った剣を、レナは子供ながら軽々と振るってみせた。

 それを見た両親は歓喜したという。
 娘には剣の才能がある。
 将来、とんでもない剣士に育つだろう。

 そして……
 その力で黎明の同盟の使命を果たすことができるはずだ、と。

 まだ子供のレナは、本当の意味でなにが正しいかわからない。
 両親の言葉は絶対で、そして、黎明の同盟の意思も絶対だ。

 言われるまま剣の修業を始めた。

 レナに才能があったのは本当だった。
 みるみるうちに上達する。
 常人が一日に1を覚えるとしたら、レナは一日に10を覚えることができた。

 ほどなくして、黎明の同盟の幹部であるゼノアスが彼女の剣の師匠になった。
 そうするだけの価値があると認められたのだ。

 両親はさらに喜んで、レナにがんばるように言った。
 そしてレナは……両親の期待に応えようと、さらに剣の稽古に力を入れるようになった。

 物心ついた時から黎明の同盟の思想に染まり。
 そして、剣を学ぶことだけを考えるようになって。
 ……他に、なにもない。

 友達はいない。
 子供らしく遊んだことなんてない。
 親の愛情も知らない。

 小さい頃のレナは、それこそ人形のように動いていた。
 自分の意思なんてない。
 決定権なんて持っていない。
 周囲に言われるまま、望まれるまま剣を学んでいた。

 本人はそれを疑問に思うことはないし、周囲に正すような者もいない。
 このまま育てば、冷酷な殺人人形ができあがるだろう。

 ……そんなある日のことだ。

 なぜか、両親にピクニックに誘われた。
 母がお弁当を作り、父はたくさんのレジャー用品を手にして、近くの山へ登る。

 なぜ、そんな無意味なことをするのか?
 レナは不思議に思ったものの、しかし、両親の言うことは絶対だ。
 言われるままピクニックに同行した。

 実は……
 この日、レナの五歳の誕生日だった。
 ピクニックに行こうと言い出したのは両親。
 日々、剣の稽古で疲れているだろうから、今日はゆっくり休ませたい。
 そして、日頃の努力を労いたい。

 そう思っていたのだ。

 黎明の同盟の思想に染まり、娘に戦う未来を選ばせようとしていても。
 それでも、両親はレナを愛していたのだ。

 しかし、土砂崩れに巻き込まれてしまうという悲劇が起きた。

 レナは死を覚悟したが……死ぬことはない。
 両親が己の身を呈して守ってくれたのだ。
 父と母はレナを抱きしめて、自分の体を盾として土砂から守った。

 おかげでレナは一命をとりとめたものの……
 両親は帰らぬ人となった。

 レナは、救助が来るまでずっと両親に抱きしめられたままだった。
 そして、その温もりがゆっくりと失われていくことを感じていた。
 その時になって、ようやくレナは両親の愛情を知った。
 自分は愛されていたんだ、と理解することができた。

 でも、もう遅い。
 両親は……いない。



――――――――――



「っていうことがあったから、どうにもこうにも、誰かの温もりって苦手なんだ。お父さんとお母さんを思い出しちゃうからねー」
「あなたは……」

 壮絶な過去を聞いて、ソフィアはどんな言葉をかけていいかわからなくなってしまう。
 エリンも同じ様子で言葉が出てこないらしい。

 そんな二人を見て、レナがにへらと笑う。

「そんな顔しないでってば。当時は悲しかったけど、今は、あれはあれでいいかな、とか思っているし」
「どういうことですか?」
「あの事件がなかったら、ボク、お父さんとお母さんに愛されていたなんてわからなかったから。二人が死んじゃったのは悲しいけど……でも、愛されていることがわかったから、それはそれでいいのかな、って」

 親の愛を知らない。
 しかし、親の死をきっかけに愛を知る。
 なんとも皮肉な話だ。

「だから……なのかな」

 ふと、レナは真面目な顔になる。

「ボク達黎明の同盟は、先祖の恨みを晴らすために戦ってきた。でも、そのために方法を選ばなくて、誰かの大事な人を奪ってきた。そのことをフェイトが教えてくれたから……ボクは、もうやめよう、って思ったんだ」