「さあ、儂の力に従うがいい!」
「っ!?」

 グルドが地面を蹴り、突撃してきた。

 速い。

 風をまとうような動きで、滑らかで、それでいて目に止まらないほどの速度だ。
 一瞬で目の前にやってきて、魔剣を振る。

 流星の剣の腹で魔剣を受け止めて……
 すぐに剣を斜めにして、刃を受け流す。

 相手の攻撃が流れたところで反撃。
 魔剣を振り抜いて、完全に無防備になっているグルドの脇を狙い、剣を叩き込む。

 ガッ!

「なっ」

 確かに刃を叩き込むことができたのだけど、しかし、鈍い感触で弾かれてしまう。
 鎖帷子かなにかを着込んでいるのだろう。

 その対策は考えていなかったわけじゃないけど……
 流星の剣の刃を通さないほど頑丈なものは、さすがに想定外だった。

 そんなものを着込んだら、相当な重さになるはずなのだけど……
 しかし、グルドは速い。

「それで終わりか、小僧!」
「小僧じゃありません。フェイトっていう名前があります!」

 すぐに体勢を立て直して、グルドの猛攻を防ぐ。

 縦から下に。
 途中で跳ね上がり、斜め上へ。
 そこから真逆に飛び、水平に剣が振られる。

 変幻自在の剣技だ。
 速くて重い。
 見切るのが大変なだけじゃなくて、一撃を受ける度に手が痺れてしまう。

「あなたは……!」

 これだけの力、一朝一夕で手に入れることはできない。
 魔剣を手に入れたとしても、ここまでの技術は身に着けられない。

 この剣技は……この人自身のものだ。

「それだけの力を持っているのに、どうして、誰かを苦しめるようなことを!?」
「それが強者の権利だ!」
「権利だって!?」
「強者が弱者を従える。それがこの世の理だろう! なればこそ、儂がどのようなことをしても、なにをしても自由! そう、これは儂に与えられた特権なのだ!」
「あなたという人は……!」

 ……かつての仲間のことを思い出した。

 Aランクに登りつめた実力者。
 でも、力を得たことで彼は傲慢になって、なにをしてもいいと勘違いをして……
 そして、最終的に破滅した。

 力があるからなにをしてもいい、なんてことは絶対にない。
 力があるから、人よりやれることの選択肢が増える。

 ただ、それだけのはずなのに……
 なんで、誰も彼も勘違いするんだ!!!

 少しでもいいから、誰かを想う心を持てば、色々なことが変わるのに。
 世界はもっと優しくなるはずなのに。
 それなのに、どうして……!!!

「それは思い上がりですよ!」
「ほざけ!」
「なんでもできるっていうのなら、誰でも従えることができるっていうのなら……僕を倒してみてください!」
「言われずとも!」

 こんな人に、絶対に負けてやらない。
 負けてなんかたまるものか!

 心が熱い。
 体に熱が灯る。

 絶対に……倒す!!!

「うわぁあああああっ!!!」
「ぐっ……こ、この力は!?」

 心が燃える。
 想いが燃える。

 それらを力とするように、何度も何度も攻撃を繰り返して……
 そして、ふと気がついた。

「……光ってる?」

 流星の剣の刀身が、わずかに輝いていた。