「いたぞ、領主の息子だ!」
「ヤツを捕まえて領主の居場所を……ぐは!?」

 どこからともなく現れた革命軍を、アルベルトは剣で斬り伏せた。

 不意打ちをしかけられているのだけど、まったく慌てていない。
 それどころか、相手の命を奪わないように、きっちりと手加減している。

 なかなかできることじゃない。

「強いんですね」
「なに、護身術程度さ。君には劣る」
「そんなことはないですよ」
「……なにもないような顔をしつつ、すでに私の倍以上を倒しているのを見ると、まるで説得力がないのだが」

 アルベルトが苦笑した。

 確かに、僕も革命軍を倒している。
 きちんと手加減をしている。

 ただ、一応、冒険者だ。
 これくらいはやらないと恥だ。

「領主はどこにいると思いますか?」

 アルベルトと肩を並べて街中を駆けつつ、そう問いかけた。

「私がセーフハウスを持つように、グルドもセーフハウスを持つ。そのどこかにいると思うが……」
「数は?」
「……わからない。十は超えるだろう。ただ、二十には届かないと思う」
「厄介ですね」

 セーフハウスが一箇所に固まっている、なんてことはまずない。
 街中に散らばるように配置されているだろう。

 運が良ければすぐに見つけられる。
 でも、運が悪いと街中を駆け回ることになる。

 そんなことになれば、その間、被害は拡大する一方で……
 とてもじゃないけれど現実的な方法じゃない。

「心当たりは?」
「……すまない。いくらかはあるものの……しかし、私は、グルドのセーフハウスの全てを把握しているわけではない。そうなると……」
「どこを探せばいいかわからない……というわけですね」
「ああ」

 まいったな。
 一刻も早く事態を解決しないといけないのに、今のところ、その道筋が見えてこない。

 情報がまったくない以上、片っ端から探して回るしかないのだけど……
 でも、アルベルトも全てのセーフハウスの場所を知っているわけではない。
 下手をしたら空振りが続いて、いつまで経っても領主のところへたどり着くことができない。

 敵を捕まえて尋問してみる?
 でも、うまいこと領主の場所を知っているとは思えない。
 前線で暴れ回る兵士に大事な情報を渡すとは思えないし……

「……仕方ない。時間はかかるかもしれないが、心当たりのあるセーフハウスを順に回ってみよう。その上で、グルドの居場所の手がかりを探そう」
「そう、ですね……」

 それしかない。

 ないのだけど……
 相当に時間がかかってしまう。
 被害が拡大してしまう。

 ここまで関わった以上、最善の結果をつかみ取りたいのだけど……

「あれ?」

 ふと、妙な気配を感じた。

「どうしたんだい?」
「えっと……ちょっと待ってください」

 足を止めて、目を閉じる。

 集中。

 心を広げて、周囲と一体化するようなイメージ。
 気配と感覚を広げていく。

 ソフィアにならった探知方法だ。
 無防備になってしまうものの、これなら遠くまで色々な気配を探ることができるとか。

「これは……」

 覚えのある気配を感じた。

 といっても、領主というわけじゃない。
 領主と顔を合わせたことはないから、彼の気配なんて知るわけがない。

 僕が感じた気配。
 それは……

「……魔剣……」

 とても禍々しい気配。
 触れているだけで、心がざわざわする。
 落ち着かなくて、気分が悪くなるような、ひどく不快なもの。

 間違いない。
 これは魔剣の気配だ。
 レナと何度も戦ったりしているから、魔剣の気配とか、感覚的にだけど覚えた。

 ということは……
 もしかして、今回の事件、黎明の同盟が絡んでいる?

「魔剣? なんだい、それは」
「えっと……詳細を説明すると長くなるので簡単に言いますけど、呪われた武器みたいなものです。ものすごく厄介な武器で、魔剣が原因で色々な事件が起きています」
「ふむ……その気配を感じるんだね?」
「はい」
「それは、どっちだい?」
「えっと……あっちですね」

 嫌な感じがする方を指さした。
 すると、アルベルトは険しい表情に。

「……私が知るセーフハウスが、ちょうどそちらの方角にあるね」
「なら……」
「もしかしたら当たりかもしれない。行ってみよう」
「えっと、いいんですか? 僕も、確証があるわけじゃあ……」
「なに、他に手がかりはないからね。無闇に探し回るよりはマシだろう。それに……」
「それに?」
「私は、君を信じているよ」

 敵わないなあ……と、僕は苦笑するのだった。