砲弾のようにレナが突撃してきた。

 速い。
 ソフィアはわずかに驚きつつ、しかし、冷静に魔剣を受け止めてみせる。

 ギィンッ!

 二つの刃が交差して、甲高い音が響いた。
 続けて、衝撃波。

 レナの力はあまりにもずば抜けている。
 受け止めただけで、コレだ。
 もしも直撃していたら、骨まで断たれ、簡単に両断されていただろう。

 魔剣の使い手。
 黎明の同盟の幹部。
 どの程度の実力者なのか、様子を見ようと考えていたが……

 そんなことをしていたら、すぐにやられてしまうだろう。
 手加減なし。
 ソフィアは最初から全力で挑む。

「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!」

 魔剣ごとレナを叩き切るつもりで、聖剣を振り下ろした。

 レナは魔剣をしっかりと両手で握り、受け止める刃の角度を調節。
 必要最小限の負担で聖剣を受け止めて、衝撃を上手に逃してやる。

「くっ、やりますね」
「君もね」

 剣を押し合う形になり、至近距離で二人は笑う。

 ソフィアにとって、レナは絶対に見逃すことができない敵だ。
 フェイトにちょっかいをかけているだけではなくて……
 とんでもない惨事を引き起こした。

 可能なら捕まえて、洗いざらい全てを吐かせたい。
 それができないのならば、ここで斬る。

 それだけの覚悟を持って挑んでいる、許すことのできない敵だ。

 ただ……
 剣の腕だけは認めていた。

 魔剣を持つから強いのではない。
 レナの地力が高く、相当な力を持つ剣士として完成されている。

 身体能力は超人並。
 技量も桁外れ。
 このようなことがなければ、殺し合いではなくて、普通の試合をしてみたい。

 そう思わせるほどに強いからこそ、惜しい。
 ここで斬り捨ててしまうことが惜しい。

「あははっ、やるね! うんうん、さすが剣聖。ボクとここまで戦うことができたのは、君が初めてだよ!」
「それは光栄ですね。ならこのまま、あなたを負かす栄誉ももらえますか?」
「それはダメー。ボクも、やることやらないと怒られるからねー。っていうわけで……」

 レナは、一度、剣を鞘に戻した。
 そのまま深く深く構える。

「その構えは……!?」
「真王竜剣術・裏之四……山茶花!」

 レナの姿が魔法のように消えて……
 気がついた時には剣を抜いて、目の前に迫っていた。

 超高速の抜剣術。

「くっ!?」

 動揺したせいで、初動が遅れた。
 それでも、ソフィアは剣聖の称号を授かる超人だ。
 ギリギリではあるがレナの剣を避けて、大きく後ろへ跳んで距離を取る。

「うわ、マジ? 今の避ける? とっておきまで出したのに、まいったなー……でも、これはこれでアリかな? うん、どんどんワクワクしてきた」
「今のは……なんですか?」
「なんのこと?」
「とぼけないでください! 今のは、神王竜の技です!」

 やや細部は異なっていた。
 だがしかし、四之太刀・蓮華であることは間違いない。
 体の芯まで染み込んだ流派を見間違えることはない。

「違うよ。ボクのは、真王竜さ。真って書いて、真王竜」
「真王竜……?」
「そっか、剣聖ちゃんは知らないんだ」

 レナはニヤニヤと笑う。
 ソフィアが知らないことを知っている。
 そのことに優越感を覚えている様子だった。

「どういうことなのか答えなさいっ」
「んー、どうしよっかなー?」
「っ!」

 レナの態度にイライラした様子で、ソフィアは殺気をギラギラと放出した。
 あまりの迫力に、さすがのレナも驚いたらしく、やや尻込みした様子で言う。

「仕方ないなー。っていうか、剣聖ちゃん、カルシウム足りてなくない? 怒りっぽすぎでしょ」
「どういうことなのですか?」
「わ、わかったから。そんなに殺気を振りまかないでよ。まったく、どっちが悪なんだか……単純な話だよ。ボクが使う真王竜は、分家なのさ」
「分家……?」
「神王竜は長い歴史を持つ流派だ。剣術の頂点に立ち続けている。そんな流派なら、どこかで派生して、分家が生まれてもおかしくはないでしょ?」
「それは……」

 その通り、と納得してしまうソフィアだった。

「神王竜は、世のため人々のために振るわれる剣。なら、真王竜は? 歴史の闇に埋もれてしまった、隠された被害者のために振るわれる剣なのさ」
「歴史の闇に埋もれた……?」
「さて、おしゃべりはおしまい。続きをやろうか!」

 レナは、業風が吹き荒れるほどの闘気を放ち、かかってこいとソフィアを挑発した。
 それに対してソフィアは……

「あれぇ!?」

 逃げ出した。