「それは俺のものだ! 俺のものなんだよ、離れろ離れろ離れろおおおおおっ!!!」
「うあああああ! お前ら、みんな敵だ! くるな、くるんじゃねえ!」
「くそくそくそっ、なんでこんなことに! 俺が一番なのに、俺が!!!」

 現場に駆けつけると、とんでもないことになっていた。

 目を血走らせて、泡を吹くように叫ぶ人が多数。
 意味不明なことを口走りながら、剣を振り回している。

 騎士団と冒険者が協力して制圧を試みるものの、なかなかうまくいかない。

 というのも、まだ逃げ遅れた人が多数いるからだ。
 腰を抜かして動けない人。
 迷子になり、泣いている子供。
 怪我をして歩けない人。
 それらの人を守りながらの戦いなので、どうしても劣勢になってしまう。

 煉獄があるとしたら、こんなところなのかもしれない。
 そう思うくらいひどいことになっていた。

「あれは……やっぱり、魔剣!」

 暴れている人達は、全員、魔剣を手にしていた。

 以前、見たものとタイプが違う。
 でも、あの禍々しい気配を間違えることはない。

「フェイト! 連中は私が制圧します」
「うん。なら僕は、逃げ遅れた人を!」
「お願いします! それと、リコリスはアイシャとスノウをお願いします」
「任せておきなさい!」

 まず最初に、ソフィアが動いた。

 石畳にヒビを入れてしまうほどに力を込めて、地面を蹴る。
 瞬間移動をしたのではないかと錯覚するほどの超加速。

 そして、抜剣。

「神王竜剣術、四之太刀……蓮華!」

 聖剣を一閃。
 暴徒が持つ魔剣を、真正面から叩き伏せて、両断した。

 急ブレーキをかけて、その場でくるりと回転。
 そのままの勢いで、暴徒の脇腹を蹴り上げる。

「!?!?!?」

 暴徒は悲鳴をあげることもできず、昏倒した。
 骨が砕ける音がここまで響いてきたものの、死んではいないと思う。

 さらに、ソフィアは倒れた暴徒の足を踏み、折る。
 追撃はひどいと思われるかもしれないけど、完全に機動力を奪うためには仕方ない。

「次、かかってきなさい!」

 ソフィアは鋭く吠えつつ、聖剣エクスカリバーを構え直した。

 その迫力に暴徒達はわずかに怯む。
 しかし、すぐに獣のように叫びつつ、ソフィアに一斉に襲いかかった。

 その数は十を超えている。
 さすがのソフィアも、あれじゃあ……

 ……なんて心配は無用だった。

「はぁあああああっ!!!」

 ソフィアは華麗に苛烈に舞い踊り、剣を振るい、次々と暴漢を叩きのめしていく。
 嵐に巻き込まれたかのように、暴漢達はどんどん倒れていった。
 剣を叩き折られて、骨を砕かれて、行動不能に陥る。

 すごい。
 なんてすごいんだろう。

 あれが剣聖。
 ソフィアの力は知っているつもりだったけど、でも、こうして改めて見るとすごいの一言に尽きる。

 僕も、あの領域に行きたい。
 いや。
 彼女の隣に並びたい。

 強く、そう思った。

 とはいえ、憧れるのは後回し。
 今は人命救助を優先しないと。

「大丈夫ですか!?」

 動けない人達に手を貸して、浜辺から避難させていく。
 騎士や冒険者だけじゃなくて、街の人々も手を貸してくれたので、思っていた以上にスムーズに避難が終わりそうだ。

 ただ、暴徒の数はなかなか減らない。
 ソフィアが叩きのめす以上の速さで、どこからともなく増援が追加されているらしく、完全制圧は遠い。

「リコリスちゃん、ウルトラメガファイアー!」

 ふと見ると、アイシャ達のところにも暴徒が。
 リコリスが魔法を放ち、撃退しようとするが……しかし、暴徒は体を燃やしつつも止まらない。
 目を血走らせていて、デタラメに剣を振るう。

 完全に理性を失っている。

「このっ!」

 神王竜剣術、四之太刀・蓮華。

 ソフィアと比べると技の切れは弱い。
 それでも暴徒には有効だったらしく、なんとか打ち倒すことに成功した。

「ちょっとフェイト! こいつら、めっちゃやばいんですけど!? 目がイッちゃってるわよ!?」
「ここにいたら危険だ! リコリスは、アイシャとスノウを連れてギルドに引き返して……いや、待って」

 落ち着いて耳を済ませてみると、街の方からも悲鳴が聞こえてきた。

 まさか、浜辺だけじゃなくて街中にも暴徒が!?

「これ、やばくない……?」
「う、うん……いったい、なにが起きているんだろう……?」

 底知れない悪意が街中で吹き荒れているような気がした。