その一言で、冷や水を浴びたように、騒ぎ立てていた心がおとなしくなる。

(そうだわ。前世は身分差でこの恋は叶わなかった。そして、今世でも身分が釣り合わなければ、この恋は実らない……)

 貴族の中でも、ヴェルディ子爵家は下級よりの中級貴族だ。
 ローゼリアは母親から習ったように、ドレスの裾をひとつかみし、淑女の礼をした。

「……ヴェルディ子爵が娘、ローゼリアです」
「ローゼリア様ですか。素敵なお名前ですね。私はエリック・スペンサーと申します」
「ということは、スペンサー伯爵家の……?」
「嫡男です。今世で私たちを遮る身分差の壁はないようですね」

 フィデリオ――改め、エリックは貴公子然とした笑みを浮かべ、許しを請うように膝を折り、片手を差し出した。

「ローゼリア様。だいぶお待たせしてしまいましたが、どうか私の妻になっていただけませんか?」