頭の片隅で、そんなことあるわけない、と否定の声がする。
見目麗しい紳士を見ていると、夢の続きを言いそうになってしまう。慌てて口元を手で覆い、ローゼリアは居たたまれなくなって駆け出した。
しかし、すぐに低い声が静止を呼びかける。
「お、お待ちください。シャーロット王女様」
「…………」
その名前は夢の中の自分を指す言葉で。
だけど、今は自分は起きている。これはどういうことだ。
混乱する頭でゆっくり振り返ると、ホッとしたように男が表情をゆるませた。
「覚えていらっしゃいませんか? あなたの護衛騎士をしておりました、フィデリオです」
その目は確かに見覚えがある。
自分をまっすぐに見つめてくる瞳は、愛しい、と訴えかけるように甘くて。
ローゼリアは夢で知っていた彼の名前を無意識に口にしていた。
「あなたは……フィデリオ・キース? 本当に?」
「ああ、女神に感謝を。お会いしとうございました。我が主」
別れのシーンではなく、彼が自分に忠誠を誓っていた夢を思い出す。
誇らしげで、嬉しげな様子は、そのときと酷似していて。
「でも、だって――あれは夢で……」
「夢ではありませんよ。前世でのあなたは王女殿下、私は護衛騎士でした」
「……それでは、あの約束も……?」
「もちろん。シャーロット様と交わした約束を忘れるはずがございません」
ローゼリアは信じられない思いで、フィデリオを見つめ返す。
(嘘でしょ……? あれは前世の記憶だったの? この人はわたくしの騎士?)
しかし、嘘だと断じるには、仕草も口調も、あまりにも似ていた。
何よりも、今まで誰にも話したこともないのに、夢の中の話が一致している。
そして決定的なのは、会いたかった、と思う自分の心。
(どう、して……)
心の奥底の自分が、目の前の彼を求めている。
自分の心なのに、自分のものではないような恐怖感がこみ上げる。本能的に彼に抱きつきたい衝動をなんとかこらえ、額に手を当てて嘆息していると、フィデリオが遠慮がちに質問してきた。
「失礼ですが、シャーロット様の今のお名前をお聞かせいただけませんか?」
見目麗しい紳士を見ていると、夢の続きを言いそうになってしまう。慌てて口元を手で覆い、ローゼリアは居たたまれなくなって駆け出した。
しかし、すぐに低い声が静止を呼びかける。
「お、お待ちください。シャーロット王女様」
「…………」
その名前は夢の中の自分を指す言葉で。
だけど、今は自分は起きている。これはどういうことだ。
混乱する頭でゆっくり振り返ると、ホッとしたように男が表情をゆるませた。
「覚えていらっしゃいませんか? あなたの護衛騎士をしておりました、フィデリオです」
その目は確かに見覚えがある。
自分をまっすぐに見つめてくる瞳は、愛しい、と訴えかけるように甘くて。
ローゼリアは夢で知っていた彼の名前を無意識に口にしていた。
「あなたは……フィデリオ・キース? 本当に?」
「ああ、女神に感謝を。お会いしとうございました。我が主」
別れのシーンではなく、彼が自分に忠誠を誓っていた夢を思い出す。
誇らしげで、嬉しげな様子は、そのときと酷似していて。
「でも、だって――あれは夢で……」
「夢ではありませんよ。前世でのあなたは王女殿下、私は護衛騎士でした」
「……それでは、あの約束も……?」
「もちろん。シャーロット様と交わした約束を忘れるはずがございません」
ローゼリアは信じられない思いで、フィデリオを見つめ返す。
(嘘でしょ……? あれは前世の記憶だったの? この人はわたくしの騎士?)
しかし、嘘だと断じるには、仕草も口調も、あまりにも似ていた。
何よりも、今まで誰にも話したこともないのに、夢の中の話が一致している。
そして決定的なのは、会いたかった、と思う自分の心。
(どう、して……)
心の奥底の自分が、目の前の彼を求めている。
自分の心なのに、自分のものではないような恐怖感がこみ上げる。本能的に彼に抱きつきたい衝動をなんとかこらえ、額に手を当てて嘆息していると、フィデリオが遠慮がちに質問してきた。
「失礼ですが、シャーロット様の今のお名前をお聞かせいただけませんか?」