「ローゼリア様。いつもバザーの品をお持ちくださり、ありがとうございます」

 シスターに渡したカゴの中には、ローゼリアが刺繍したハンカチやレース編みのコースターなどが入っている。

「孤児院のためですもの。わたくしにはこのくらいしかできませんので」
「何をおっしゃいますか。ヴェルディ子爵家からは定期的に孤児院に寄附金もいただいておりますし。なんとお礼を申し上げていいか」

 恐縮しているシスターをなだめ、ローゼリアはまた来ます、と言って礼拝堂脇の小部屋から退室した。
 祭壇の後ろに立つ司祭に目礼し、入り口を目指す。
 横に並ぶステンドグラスから光が斜めに差し込み、赤い絨毯の上に降り注ぐ。古びた長椅子には老夫婦が座っている以外、がら空きだ。
 とはいえ、ヴェルディ領の教会は週末には人でにぎわう。温厚な司祭の語り口は心を和やかにさせる作用もあり、いつもは騒がしい子供もおとなしくなるとか。
 王都の大聖堂に比べたら規模も内装も見劣りするが、領民の憩いの場になっていることは疑いようがない。
 教会の裏にある孤児院では今頃、お腹を空かせた子供たちが元気に走り回っているだろう。シスターの話だと、勉強も頑張っているようだし、近いうちにクッキーを差し入れに来ようと決める。
 教会の扉を開けると、ちょうど表に横付けされた馬車から青年が降りてくるところだった。
 首元に巻かれたクラヴァットに膝丈まであるフロックコート。背も高めだ。貴族らしい格好だけでなく、馭者に言葉を返す言葉遣いも優しい。育ちの良さが垣間見えた。

(……それにしても珍しい。瑠璃紺の髪だわ)

 思わず凝視していると、向こうも立ちすくむローゼリアに気がついたように、こちらに視線が向けられる。
 その瞬間、切れ長の瞳が瞬いた。
 短いような長いような沈黙ののち、ローゼリアは既視感を抱く。

(エメラルドグリーンの瞳……夢と同じ……)

 夢の中で未来を誓い合った騎士と同じ瞳に、金縛りに遭ったように体が動けなくなる。
 顔の造作は美しいが、昔から夢で会う彼とは別人だ。そもそも髪の色も違う。

 ――それなのに、なぜか夢で見た騎士と目の前の人物がダブって見えた。