恋する人と結ばれない――それは幼い頃から繰り返し見てきた夢。

「シャーロット王女殿下……」
「フィデリオ。わたくしが隣国に嫁いでも、わたくしの心はあなたのもとに。どうか来世ではあなたの妻にしてください」
「もちろんでございます」

 誰も近寄らない裏庭の東屋にて、シャーロットは自分の愛する騎士を見つめた。
 彼は胸に手を当てて跪き、頭を垂れている。
 いつだって、身分違いの恋の結末は、物語のようなハッピーエンドとはほど遠い。所詮、現実なんてこんなものだ。

 自分が王女でなければ。彼が他国の王子であったなら。

 そんなもしもを想像しても、切ないだけだ。
 彼の前で涙は見せてはいけない。彼が思い出す自分の顔は笑顔であってほしいから。

「願わくはあなたに幸多からんことを。――来世では結ばれましょう」
「はい……っ! 姫様もどうぞお元気で」

 その約束を最後に、舞台は暗転する。
 夢から覚めたときは、心にぽっかりと穴があいたような空虚感が残っている。
 目の裏には、夢の中の騎士がエメラルドグリーンの瞳をきらきらさせ、自分を見上げているシーンが焼き付いていた。
 別れを惜しむように目を少し潤ませた彼の顔を思い出すたび、胸がつきりと痛む。
 その痛みはまるで、忘れるな、と自分に戒めているようだった。