私と彼の結婚を知ったとき、彼女はただそれを喜び、「実は相談されていたんです」と私に秘密を明かした。

「そんなこと初めてでしたから、本気なんだと思いました」

「相手が彩さんで良かった」と柔らかな笑みを浮かべる彼女に安堵しながらも、私の心はどこか霞がかっていた。

彼女が作ったウェディングブーケを手にしていても、愛しい我が子を腕に抱いていても、それは変わることはなく。

いつの間にか、彼女への想いは積雪のように重くかたまっていた。

けれど溶かしたい衝動に駆られて口から出た言葉は、「貴方」ではなく────「紫陽花」だった。

降り出した雨がこぼれた涙を隠してゆく。

紫陽花が好きだと言った私に、彼女は持っていた透明な傘を差し掛けた。

「私も好きです」

それは紫陽花に向けられた言葉だったけれど、霞がかっていた私の心は不思議と晴れていった。

「あ……私、前にも言いましたね」

声をひそめて笑う彼女の後ろから、雨音に紛れて私を呼ぶ声が聞こえた。   

視線を上げれば傘越しに彼の姿と彼女が名付けた娘の(さく)が朧げに見えた。

優しい彼のことだから、傘を持たずに家を出た私を迎えに来たのだろう。

駆け寄る彼に手を振ると、私に気づいて咲が笑った。

隠れた涙の代わりのように雨粒は傘を伝って流れ、秋紫は頷くように風に揺れた。