「コモレビ」
「ビスケット」
「トリカゴ」
「……ゴメン」
数歩先を行く彼女がこちらを振り返る。
予想通り彼女は首を傾げた。
「難しかったですか。じゃあ、トリカゴはやめ────」
「そうじゃないの……そうじゃなくて……」
花がしぼむように彼女の顔から笑顔が消えてゆく。
彼女を映した視界の端で色の抜けた紫陽花が健気に咲いていた。
「私────」
いつか彼女はそれを秋紫と呼び、一番好きな花だと語った。
季節と共に色が移り変わってゆく姿が見ていて面白いのだと。
そして、「彩り」という言葉が好きだと笑った。
紫陽花に相応しい言葉だからと。
なぜ今それを思い出すのだろう。
なぜ涙がこぼれるのだろう。
私は────
「紫陽花が好き」
なんて馬鹿なのだろう。