それにしても。
 隼理くんは気付いたのかな。
 誰かが保健室に向かってきていることを。

 ……私と熱いくらいの……キス……していたのに。

 瞬時に人の気配を感じることができるなんて。
 すごい察知能力。


 それと。
 すごく冷静。

 直前まで私と……キス……していたのに。
 何事もなかったかのように麻川先生に対応している。

 気持ちの切り替えの早さ。
 これは隼理くんの特技なの?


 そう思っている間に。
 隼理くんは麻川先生に一通りの話を終えていた。


 隼理くんの車で家まで送ってもらう。
 そのため駐車場へ向かうことに。
 保健室を出るとき、足が思うように動かない私を隼理くんは負ぶってくれた。

 そのとき思い出した。
 部員たちに『今日は練習をすることができない』ということを伝えなければ。
 そのことを話すと、麻川先生が「伝えておくね」と言ってくれた。

 麻川先生にお礼を言って、私と隼理くんは駐車場へ向かった。





 乗り慣れた車。
 それに乗って隼理くんに家まで送ってもらった。

 家に着くと。
 隼理くんは、さっきのように負ぶってくれて。
 そのまま私の部屋まで行った。

 部屋に入ると。
 隼理くんはベッドまで連れていってくれた。
 そして、やさしくベッドに寝かせてくれた。

 隼理くんにお礼を言うと、隼理くんは「いいよ、そんなこと」と、いつものようにやさしく言ってくれた。


 そうだ。
 明日は、いつものように隼理くんの部屋に行く予定だった。
 けれど、この足では。

 だから隼理くんに、そのことを伝えた。

 隼理くんもわかってくれているみたいで。
「わかってる。明日はゆっくり休んだ方がいい」と言ってくれた。

「……だけど……」
 その直後、隼理くんは寂しそうな表情(かお)をして。
「明日、夕鶴に会えない分、
 今、充電しておきたい」と言って……。
 そっと、やさしいキスを……。


 ……私……。
 単純……なのかもしれない……。

 あれだけ美輝さんのことで悩んでいるのに。
 こうして隼理くんの温もりを感じると。
 幸せな気持ちになってしまう。

 まだ美輝さんのことが解決したわけではないのに……。



 “トントン”