「大丈夫か、夕鶴」


 ……‼


「……って、立ち上がることも辛いのに大丈夫なわけないよな」


 いつの間にか考え事をしていた。

 隼理くんに声をかけられて我に返った。


 芦達先生が出ていった保健室。
 そこには私と隼理くんの二人……。


 ……なんだか。
 少しだけ、気まずい。

 この気持ち。
 一体どうすれば……。


 と、思ったけれど。

 そう思っているのは私だけで。
 隼理くんは全くそういうふうには思っていない。

 隼理くんは私が美輝さんの名前を知っていることは知らない。
 そして、そのことで悩んでいることも知らない。
 だから今もこうして普通に話しかけてくる。
 そうする隼理くんに全く悪気はない。

 だけど。
 私はそういうわけにはいかない。
 美輝さんの存在を知ってしまった以上、何もないように隼理くんに接することはできない。

 けれど。
 それでも。
 やっぱり私は普通に接するふりをしてしまうのだろう。


「大丈夫と言ったら嘘になるけど、
 さっきよりは良くなってきたみたい。
 芦達先生が貼ってくれた湿布が効いてきたんじゃないかな」


「…………」


 ……?

 隼理くん……?


「……芦達……先生……」


 え……。

 隼理くん……?

 どうしたのだろう。
 隼理くんの様子が……。


「……そういえば言ってたな、芦達先生が……」


 なんだか……。


「……貼ってもらったんだな……」


 表情や声のトーンが……。

 少しだけ……怖くなっている……?

 話し方は静かだけど……。


「芦達先生には、すごく感謝している。
 ……だけど……」


 ……‼

 しゅっ……隼理くんっ⁉


 それは、あまりにも突然のことで。

 驚き過ぎて声が出なかった。

 身体がふわっと浮いた、と思ったら。

 気付いたときには。
 すでに保健室のベッドに押し倒されていて。

 私の真上には。
 覆い被さるように隼理くんが……。