あの日――。

 本当は直接話したいと通話で隼理くんが話していたとき。


 あの日、隼理くんは私にこう伝えた。

 夏フェスの終了直後。
 体育館の舞台に上がり。
 私と隼理くんは恋人同士だということを生徒たちに伝えたい、と。

 そのあと校長室に行き。
 校長先生に教師を辞めることを伝える、とも。


 隼理くんからその話を聞いたとき。
 私は即返答をすることはできなかった。
 というか、できるわけがない。

 私と隼理くんは恋人同士だということを生徒たちに伝えてしまったら。
 隼理くんは教師を辞めてしまう。

 教師は。
 隼理くんが小さい頃からの目標だった。
 そう隼理くんから聞いていた。

 そして。
 こうして今、叶えることができている。

 それなのに。
 私とのことを生徒たちに伝えることによって。
 教師を辞めることになってしまうなんて。

 そんなこと。
 私には耐えることができない。

 だから。
 その気持ちを隼理くんに伝えた。

 そうしたら。
 隼理くんはこう言った。
 私と恋人同士という話が広まらなくても。
 近いうちに教師を辞めるつもりだった。
 自分には教師以外にやりたいことができたから。
 それはミュージックカフェを始めること。
 そこで私と一緒に働きたい、と。

 隼理くんは覚えてくれていた。
 私が将来やりたいことはミュージックカフェを始めること。
 そこで定期的にライブをやりたいと。

 だから隼理くんからその話を聞いたとき。
 ものすごく嬉しい気持ちになった。
 そして感謝の気持ちでいっぱいになった。

 けれど。
 いくら隼理くんがそう言ってくれていても。
 本当にそれでいいのか。
 隼理くんは私に気を遣って無理を言ってくれているのではないか。
 そうだとすれば、ものすごく申し訳ない。

 だから。
 隼理くんにその気持ちを伝えた。

 すると隼理くんは。
 気を遣っているわけではないし。
 無理もしていない。
 本当にやりたいと思っている。
 だから気にしないで、と。