『夕鶴に話したいことがあって……』


 少しの無言の後。
 隼理くんが再び話し始めた。


 話したいこと?

 何だろう。


『本当は直接話したいことなんだけど……』


 隼理くんはそう言った。
 少しだけ躊躇(ためら)うように。


 隼理くんがそう言った理由(わけ)

 私と隼理くんは。
 ほぼ毎週土曜日に会うことができていたけれど。
 学校中に私と隼理くんのことが広まって以来、一度も隼理くんと会うことができていない。

 会うことは少し落ち着いてからにしよう。
 私と隼理くん、お互いの考えが一致した。


「俺、いろいろ考えた。
 ……夕鶴、今から伝えること、驚かずに聞いてほしい。
 いきなりそんなことを言われてもと思うかもしれないけど、
 今回の騒動とは関係なく、それよりも前から考えていたことだから」


 考えていたこと……?

 なんだろう……。


『もうすぐ夏フェスだな』


 ……?


「……うん」


 隼理くん。
 なんで突然、夏フェスの話になったのだろう。


『夕鶴のバンドのパフォーマンス、楽しみにしている』


 ……?


「ありがとう、隼理くん」


 そう言ってくれることは。
 すごく嬉しいのだけど……。

 本当にどうしたのだろう。


『……夕鶴』


「うん?」


 隼理くんが私の名前を呼んで。
 それから隼理くんの声が聞こえてこない。

 その沈黙は。
 ほんの数秒なのだと思う。

 けれど。
 気持ちの上では、かなりの長さを感じる。

 その感覚が。
 より緊張感を増す。


『……俺……』


 そのとき。
 隼理くんが口を開いた。

 そして。


『そのとき―――』


 隼理くんが話し始めた。


 隼理くんの話を聞いて―――。


 …………。

 …………。


 え―――っ⁉


 隼理くんの話は。
 驚きと。
 驚きだけでは表現できない。
 複雑な感情が混ざり合った―――。