六月の中旬。

 夏本番ではないけれど、朝から気温が高く暑さを感じる。


 今、学校に着いて靴を履き替えて教室へ向かっているところ。


 ……って……。

 ……?

 ……気のせい……だろうか。

 さっきから、ちらちらと見られているような……。


 そう思ったけれど。
 やっぱり気のせいかもしれない。
 そう思いながら教室に入った、ら……。


 ……やっぱり。
 気のせいではなかった。

 確実に。
 見られている。


 私が教室に入った瞬間。
 雑談をしていたクラスメートたちが。
 一斉に無言になって私の方を見た。


 これは……。
 一体何が起こっているのか。

 見られているといっても。
 睨まれているわけではなく。
 驚いている感じ。

 とはいっても。
 みんなは私の何に驚いているのだろうか。

 何にとはいっても。
 特に何も変わったことはしていない。



「夕鶴‼」


 なにがなんだかわからなくて。
 教室の戸のところでぼーっと立っていると。
 今年度は違うクラスの朝海が廊下のところで私の名前を呼んだ。

 その様子は。
 なんだか焦っているというか慌てているというか。

 そんな様子の朝海が私に近づいてくる。


「ちょっといい?」


 私のところに来た朝海は私の腕を掴んだ。

 そして、そのまま私を連れて歩き出した。


「あっ……朝海?」


 なにがなんだかわからない。

 クラスメートたちが一斉に私を見たことも。
 朝海が慌てた様子で私を連れ出していることも。

 今、一体何が起こっているのか。
 なぜ今日いきなりこんなことになっているのか。
 何もわからない私は恐怖と不安でいっぱいだった。