今、本屋にいる。


 今日は楽しみにしていたマンガの単行本の発売日。


 そのマンガは幅広い世代にとても人気。

 私もその中の一人で、一巻から揃えている。


 わくわくしながら、そのマンガが置いてあるところに行ってみると。

 売れ切れ。

 販売日は未定となっている。

 残念。

 また販売するまで待つしかないのかな。

 だけど、その日が来ても、また売れ切れてしまうかもしれない。

 だから。
 注文しようかな。


 そう思い、レジのところへ……。


「遥稀」


 向かおうとしたとき。

 名前を呼ばれた。


 その声は……。


「松尾……」


 高校を卒業してから十五年。
 ばったりでも一度も松尾と会わなかったのに。


「偶然だな」


 偶然、合コンで会ってからは。
 こうして、ばったり会うから。


「そうだね」


 なんだか。
 不思議。


「遥稀も何かほしい本があるの?」


 松尾にそう訊かれて。
 ほしかった本のタイトルを言って。
 それが売れ切れていたから注文しようと思っていることを言った。


「その本、貸すよ」


 そうしたら。
 松尾がそう言ったから。


「え?」


 貸すって。
 その本は今日発売したばかりなのに。


 って。
 もしかして。


「今、ちょうど買った本がそれだから」


 やっぱり。


「俺が買うとき、ちょうど一冊しかなくて」


 そうだったんだ。