「柚翔、どういうこと?」


 どうしよう。


「これ、誰の口紅?」


 ズボンのポケットに口紅を入れていなかったら。



 真彩が俺の部屋に来る直前。
 完璧に片付けたと思っていたのに。
 見つけてしまった。
 テーブルの下に口紅が落ちているのを。

 それを見た。
 そのとき、ものすごく慌てた。


 真彩は玄関のドアの向こうで俺がドアを開けるのを待っている。


 俺は慌てて口紅を拾った。

 そして、それをどうしたらいいのか頭の中が混乱していた。


 そんな中、とっさに思いついた。
 とりあえずズボンのポケットの中に入れよう。

 そう思い、慌ててズボンのポケットの中に口紅を入れた。


 そして玄関のドアを開けて真彩を迎え入れた。



 慌てて口紅をズボンのポケットの中に雑に入れたからかもしれない。

 動くたびに口紅がズボンのポケットの中で動いて上がってきて、ポケットから少し飛び出てしまっていたのだと思う。

 そして立ち上がったときに、一気に口紅が上がってしまってポケットから落ちた、ということなのだろう。



「柚翔」


 どうしよう。


「何で黙ってるの」


 なぜ口紅を持っているのか。
 それをどう説明すれば……。


「ねぇ、柚翔」


 どうしよう。
 なにも思いつかない。


「柚翔」


 それでも。
 何か言わないと。

 そうじゃないと。
 とんでもない誤解に……。


「ねぇ、柚翔、
 もしかして……」


『もしかして』って……。

 まさか。
 まさか真彩……。