真彩が俺の部屋に来てから一時間くらい経った。


 俺と真彩はテレビを観たり会話をしたりしてのんびりと過ごしている。

 そのとき、真彩が飲んでいるりんごジュースが入っているコップの方に目がいった。
 コップの中は空になっていた。


「真彩、
 りんごジュース、おかわりあるよ、飲む?」


「うん、飲みたい。
 ありがとう、柚翔」


 真彩の返答を訊き、俺はりんごジュースを取りに行こうと立ち上がった。


 ‟ポロッ……”


 そのとき。
 ズボンのポケットから落ちてはいけないものが落ちた。

『あっ』と思った。
 そのときには、すでに遅かった。


「柚翔、ポケットから何か落ちたよ」


 気付かれてしまった、真彩に。
 その瞬間、頭の中がパニック状態になった。

『真彩、頼むから見ないでくれっ‼』
 心の中で必死にそう叫び。
 慌てて拾おうとした。


「うん? 何これ」


 のだけど。
 真彩に先に拾われてしまった。


「え……っ」


 その直後。
 真彩はすごく驚いた顔をした。

 と同時に。
 真彩は驚いたまま固まってしまった。


「柚翔……これ……」


 真彩に拾われてしまった。


 どうしよう。

 どう言い逃れをすればいいのだ。


 いや、そんなことできるはずがない。


「なに、この口紅」


 真彩が拾ったのは。
 俺が女装をするときに使っている口紅だったから。