「……照れる……ねぇ。
 それならしかたがないか」


 よかった、諦めてくれた。


「じゃあ」


 と、思ったのだけど。
 真彩がそう言ったから。

 何を言うのだろうと身構えてしまう。


「ハロウィンのときなら、どう?
 そのときなら普段のデートのときと違って、
 女装と男装したって周りの人たちは仮装としか思わないわよ」


 何かは言うと思った。

 だけど。
 まさかハロウィンのときに仮装として女装と男装をしようと言ってくるとは。


「そっ……そういう問題じゃ……」


 だから、すっかり動揺してしまっている。


「そういう問題でいいじゃない」


 それに対して。
 無邪気な笑顔の真彩。


「たっ……頼むっ。
 勘弁してくれっ」


 もう、お手上げ状態。


「え~、なんで~、いいじゃん別に。
 仮装だよ仮装。
 周りの人たちは、そういうふうにしか見ないって」


 それに対して。
 やっぱり無邪気に笑い続ける真彩。


 ダメだ。
 俺にとっては女装というのは仮装じゃなくて趣味なんだ。

 大事な趣味を簡単にいろいろな人たちに見られるわけにはいかないっ‼


「頼むっ、もう勘弁してくれっ」


 必死に真彩に頼み込む。


「なんで~、いいじゃん、いいじゃん」


 それなのに。
 今度は無邪気な笑った感じではなく。
 甘えた口調でそう言ってきたから。


 ……ずるいぞ、真彩。

 知っている、真彩は。
 俺の弱点を。

 真彩に甘えた口調で言われる。
 そうすると、とたんに弱くなる。

 真彩の甘えた口調。
 それは、まるで危険な甘い蜜のよう。

 だから真彩にそんな口調で言われてしまうと……。