「おはよう、瀬戸さん」


聞こえてきた声に、条件反射で勢いよく顔が上がった。
見上げた先には、残念さを微塵も感じさせない爽やかな笑顔を浮かべた完璧なイケメン水無月くんが、当たり前のように立っている。


「み、水無月くん!?」

「うん、おはよう」


驚きで勢いよく体を起こすと、水無月くんはいつものように当たり前のような顔をして隣の席に座って、こちらに体を向ける。
この席の本当の主はついさっき、一時間目の教科書を忘れてきたと血相を変えて、隣のクラスに走っていくのを見た。


「瀬戸さん、おでこに跡がついて赤くなってるよ」


自分の額を指差して、水無月くんが可笑しそうに笑う。
昨日風邪を引いて休んでいたとは思えない、随分と元気そうな笑顔だ。


「あっ、そうだ瀬戸さん!これこれ」


突然水無月くんが、何かを思い出したように鞄をあさり始める。


「じゃーん!」


楽しそうな水無月くんが取り出したのは、“大人な苦味のコーヒー牛乳”なるもの。
取り出した二本の紙パック入りコーヒー牛乳を私の机に並べると、あとは嬉しそうにひたすらにこにこ笑っている。