「……謎すぎる」


みんなの目に、おかしなフィルターがかかっているとしか思えない。

ちらりと隣を窺えば、いつもはそこに当たり前のようにある整った顔が今日はない。
瀬戸さん!と名前を呼ぶ声や、屈託のない笑顔、拗ねた子供みたいなむくれ顔を思い浮かべながら、隣の席を見つめる。

いつもは水無月くんにいいように言いくるめられて呆然と聞くチャイムの音を、今日はただぼんやりと聞き流していると、隣の席の持ち主である男子生徒がやって来て、椅子に腰を下ろすなり前の席の男子に向かって笑いながら口を開いた。


「なんか、いつもは水無月が温めといてくれるから、今日は椅子がやけに冷たく感じるわ」

「なんだよそれ。お前言い方が気持ちわりいな」


そのまま始まった談笑を聞くともなしに聞きながら、窓の方に視線を移す。

今頃、水無月くんは……。

水無月くんのいない、平和で幸せなはずの私の一日は、胸にモヤモヤしたものを残したまま、こうして始まった。