眠過ぎて完全に開かない目は半開きで、とてつもなく凶悪な目つきをしている自覚はあるが、水無月くんは特に気にした様子もなく、私が話を聞く体勢になったことをただひたすらに喜んでいる。


「じゃあまずは、今朝登校中に出会ったサブさんの話からね!」


“サブ”と言われて、頭の中にはゆったりとした足取りで歩く柴犬の老犬が浮かんでくる。
きっとすぐに犬に結びつけてしまうのは、この間のマルチーズ話のせいだ。

それに水無月くんは動物好きだ。
爬虫類も両生類も魚も虫も、生きているものはなんだって好きで、もちろんその中には人間だって混じっている。
秀才は私みたいな凡人とは見えている世界が違うのだ。


「サブさんってばね、すごく大きいのにスピードが速くて、見つけてもすぐいなくなっちゃうんだけど、今日は運良く交差点の手前にいるところを見かけたんだ!」


一瞬で頭の中から柴犬を消し去り、代わりにもっと大型の犬を思い浮かべる。
でも元々犬には詳しくないから、思い浮かべる犬種にも限界があるけれど。


「お仕事中だから邪魔したらいけないなって思ったんだけど、最近中々見かけなかったからつい嬉しくなって、写真撮らせてもらっちゃった」