芋として育てるため、種代わりとした芋は種芋である。
種芋を植えたその晩、いきなり奴らはやって来た。
枯れ草ベッドの上で爆睡していた俺は、警報音によって目覚める。
「来たか、芋泥棒!!」
こんなこともあろうかと、芋畑一帯には芋を掘り返そうとする意思を持ったものの接近を感知し、俺に知らせる警戒魔法ゾクダー(俺命名)を仕掛けておいたのだ。
下着一丁のまま、魔法を使う。
「瞬間移動魔法、シュンッ(俺命名)!」
俺の姿はシュンッと消え、出現場所として指定しておいた芋畑の中央に現れた。
そこでは、畑に今にも入り込もうとしている三頭の猪の姿が。
「猪……可愛そうだが、今は芋をお前らにくれてやるわけにはいかない」
「ピギィ!」
「ブギィ!」
猪が興奮している。
俺に向かって突っ込んでくるつもりだな。
だが、畑には踏み入れさせんぞ!
芋のために、フワッフワにした土なのだ。
俺だってこうやって立っている用に見えるが、浮遊魔法フワリで一センチくらいの高さに浮かんでいるのだ。
「空間固定魔法、ピキーン(俺命名)!」
俺の指先から放たれた魔力波は、光と同じ速度で猪へと飛ぶ。
当然、荒ぶる野ブタに過ぎぬ奴らに避けることができるはずもない。
魔法抵抗力すら無いただの猪は、そのまま空間に縫い付けられて動けなくなった。
「下手に、侵入者撃退能力を持つ柵を作ったら、カトリナやブルストが引っかかるかもしれないからな。俺がちょくちょく見に来るのが一番安全だろう」
固定した猪を、まとめて回収する。
そして、苦しまないように介錯してやるのだ。
「パーンチ!」
「ブグワー!」
「パーンチ!」
「ブグワー!」
「パーンチ!」
「ブグワー!」
三頭の猪は首を折られて死んだ。
弱肉強食。
野生の掟は厳しいのだ。
明日はバーベキューだね。
肉が悪くならないよう、収納魔法アイテムボクースに詰め込んでおく。
この中では、時間が経過しないのだ。
俺はそのまま戻り、熟睡する。
朝までぐっすりだ。
そしてどれだけ深く眠っても、夜明けには……。
「おはよう!」
目覚める。
朝の日課の水汲みを終え、芋畑への水やりを済ませると、朝食の時間だ。
ここで昨夜の話をすることにする。
「実はな、昨夜、芋畑に猪がやって来た」
「なんだと! あいつら、懲りねえなあ!」
「人間が埋めた芋は簡単に掘り返せるからな。だが安心してくれ。全部倒してやったぞ」
「全部!? 夜に物音はしてなかったと思うが……」
「猪狩りは得意なんだ。猪猟師ショートと呼んでもらって構わない」
「お前、毎日二つ名がコロコロ変わるなあ」
ブルストが感心した。
「で、猪はどうしたんだ? 放っておくと狼も寄ってくるだろ。早く血抜きして肉にしねえとだぞ」
証拠もないのに、俺が猪を狩ったということを信じてくれるブルスト。
いいやつだ。
「よし、飯が終わったら外でやろう。そこで見せたいものがある」
「おう」
「見せたいもの?」
カトリナが首を傾げた。
朝食の後片付けを終え、二人を連れて家の前に出る。
そこで俺は、収納魔法アイテムボクースを展開した。
取り出すのは、三匹の猪。
ブルストもカトリナも、目を丸くしてこれを眺めている。
「な……なんだ、そいつは。もしかして、アイテムボックスってやつか! すげえ高価な魔法の道具じゃないのか」
「えっ! アイテムボックスっていうマジックアイテム、もうあるのか!? 知らなかった。これはアイテムボクースという俺が作った収納魔法でな」
何せ国王、俺が旅立つ時は50Gしかくれなかったし、武器は銅の剣と防具が布の服だったからな。
そんな高価な物、買うどころか存在に気付くことすらできなかった。
「名前似てるなあ……。しかしショート、お前、本当に魔法が得意だったんだな。すげえな!」
「猪をしまっておける魔法なのね! すごいよショート!」
うむ。
アイテムボクースはどうやら、猪専用収納魔法として認識されたらしい。
それでいいや。
「そこでだ。猪のさばき方を伝授してもらおうと思ってな、ブルスト師匠」
「し、師匠!? グフフ、よせやい」
「あっ、お父さんが照れてもじもじしてる。かわいい」
娘に可愛い呼ばわりされるおっさん。
だが、猪のさばき方を習うのは大事なことだ。
野生動物を使ったジビエ料理は、スローライフの肝っぽいだろう。
将来的に、家畜を飼って行こうとも思っている。
その時には絶対に、動物をさばく技術が必要になる。
「頼むぜ師匠」
「よーし、よしよし! そんじゃあ、俺のやることをしっかり見てろよぉショート!」
「おうよ!」
「お父さんすっごくやる気になってる。楽しそう。ショートのお陰だね」
カトリナがウインクしてきた。
「お、おう」
今度は俺がもじもじした。
女子がウインクしてくることって本当にあるんだな……!!
マンガとかの中だけの話かと思ってたぜ。
「お父さんね、私を守るために必死でね、ずーっと気を張って頑張って来てたの。ショートが、お芋掘り尽くしたらどうするんだーって言ってたでしょ。あれもホントは私たち、心配だったんだよ。だけど、畑は猪にやられて失敗しちゃって、お父さん落ち込んじゃって……」
「うりゃ! こうして! 毛皮をズバーッと剥いでだな! 見てるかショート!」
「おうよ!」
「そうそう。そんなとこで、ウグワーッて言って生水のんでお腹壊した人がいたから、落ち込んでる場合じゃなくなっちゃったの」
「俺か!」
「そう、ショートのこと。ありがとうね、ショート」
「お、おう」
いかん、集中力が削がれる!
俺はドキドキするのを無理やり抑えつつ、ブルストの仕事ぶりに集中する……する……す……。
「これからもショートがいてくれたら助かるな。ううん、わがまま言っちゃだめだよね。でも、ショートいる間はお父さんも……私も楽しいから」
集中できるか──────────ッ!!
結局、ブルストの実践は全く頭に入ってこなかったので、この光景を記録魔法ウツシトールで撮影し、後で復習することにしたのだった。
種芋を植えたその晩、いきなり奴らはやって来た。
枯れ草ベッドの上で爆睡していた俺は、警報音によって目覚める。
「来たか、芋泥棒!!」
こんなこともあろうかと、芋畑一帯には芋を掘り返そうとする意思を持ったものの接近を感知し、俺に知らせる警戒魔法ゾクダー(俺命名)を仕掛けておいたのだ。
下着一丁のまま、魔法を使う。
「瞬間移動魔法、シュンッ(俺命名)!」
俺の姿はシュンッと消え、出現場所として指定しておいた芋畑の中央に現れた。
そこでは、畑に今にも入り込もうとしている三頭の猪の姿が。
「猪……可愛そうだが、今は芋をお前らにくれてやるわけにはいかない」
「ピギィ!」
「ブギィ!」
猪が興奮している。
俺に向かって突っ込んでくるつもりだな。
だが、畑には踏み入れさせんぞ!
芋のために、フワッフワにした土なのだ。
俺だってこうやって立っている用に見えるが、浮遊魔法フワリで一センチくらいの高さに浮かんでいるのだ。
「空間固定魔法、ピキーン(俺命名)!」
俺の指先から放たれた魔力波は、光と同じ速度で猪へと飛ぶ。
当然、荒ぶる野ブタに過ぎぬ奴らに避けることができるはずもない。
魔法抵抗力すら無いただの猪は、そのまま空間に縫い付けられて動けなくなった。
「下手に、侵入者撃退能力を持つ柵を作ったら、カトリナやブルストが引っかかるかもしれないからな。俺がちょくちょく見に来るのが一番安全だろう」
固定した猪を、まとめて回収する。
そして、苦しまないように介錯してやるのだ。
「パーンチ!」
「ブグワー!」
「パーンチ!」
「ブグワー!」
「パーンチ!」
「ブグワー!」
三頭の猪は首を折られて死んだ。
弱肉強食。
野生の掟は厳しいのだ。
明日はバーベキューだね。
肉が悪くならないよう、収納魔法アイテムボクースに詰め込んでおく。
この中では、時間が経過しないのだ。
俺はそのまま戻り、熟睡する。
朝までぐっすりだ。
そしてどれだけ深く眠っても、夜明けには……。
「おはよう!」
目覚める。
朝の日課の水汲みを終え、芋畑への水やりを済ませると、朝食の時間だ。
ここで昨夜の話をすることにする。
「実はな、昨夜、芋畑に猪がやって来た」
「なんだと! あいつら、懲りねえなあ!」
「人間が埋めた芋は簡単に掘り返せるからな。だが安心してくれ。全部倒してやったぞ」
「全部!? 夜に物音はしてなかったと思うが……」
「猪狩りは得意なんだ。猪猟師ショートと呼んでもらって構わない」
「お前、毎日二つ名がコロコロ変わるなあ」
ブルストが感心した。
「で、猪はどうしたんだ? 放っておくと狼も寄ってくるだろ。早く血抜きして肉にしねえとだぞ」
証拠もないのに、俺が猪を狩ったということを信じてくれるブルスト。
いいやつだ。
「よし、飯が終わったら外でやろう。そこで見せたいものがある」
「おう」
「見せたいもの?」
カトリナが首を傾げた。
朝食の後片付けを終え、二人を連れて家の前に出る。
そこで俺は、収納魔法アイテムボクースを展開した。
取り出すのは、三匹の猪。
ブルストもカトリナも、目を丸くしてこれを眺めている。
「な……なんだ、そいつは。もしかして、アイテムボックスってやつか! すげえ高価な魔法の道具じゃないのか」
「えっ! アイテムボックスっていうマジックアイテム、もうあるのか!? 知らなかった。これはアイテムボクースという俺が作った収納魔法でな」
何せ国王、俺が旅立つ時は50Gしかくれなかったし、武器は銅の剣と防具が布の服だったからな。
そんな高価な物、買うどころか存在に気付くことすらできなかった。
「名前似てるなあ……。しかしショート、お前、本当に魔法が得意だったんだな。すげえな!」
「猪をしまっておける魔法なのね! すごいよショート!」
うむ。
アイテムボクースはどうやら、猪専用収納魔法として認識されたらしい。
それでいいや。
「そこでだ。猪のさばき方を伝授してもらおうと思ってな、ブルスト師匠」
「し、師匠!? グフフ、よせやい」
「あっ、お父さんが照れてもじもじしてる。かわいい」
娘に可愛い呼ばわりされるおっさん。
だが、猪のさばき方を習うのは大事なことだ。
野生動物を使ったジビエ料理は、スローライフの肝っぽいだろう。
将来的に、家畜を飼って行こうとも思っている。
その時には絶対に、動物をさばく技術が必要になる。
「頼むぜ師匠」
「よーし、よしよし! そんじゃあ、俺のやることをしっかり見てろよぉショート!」
「おうよ!」
「お父さんすっごくやる気になってる。楽しそう。ショートのお陰だね」
カトリナがウインクしてきた。
「お、おう」
今度は俺がもじもじした。
女子がウインクしてくることって本当にあるんだな……!!
マンガとかの中だけの話かと思ってたぜ。
「お父さんね、私を守るために必死でね、ずーっと気を張って頑張って来てたの。ショートが、お芋掘り尽くしたらどうするんだーって言ってたでしょ。あれもホントは私たち、心配だったんだよ。だけど、畑は猪にやられて失敗しちゃって、お父さん落ち込んじゃって……」
「うりゃ! こうして! 毛皮をズバーッと剥いでだな! 見てるかショート!」
「おうよ!」
「そうそう。そんなとこで、ウグワーッて言って生水のんでお腹壊した人がいたから、落ち込んでる場合じゃなくなっちゃったの」
「俺か!」
「そう、ショートのこと。ありがとうね、ショート」
「お、おう」
いかん、集中力が削がれる!
俺はドキドキするのを無理やり抑えつつ、ブルストの仕事ぶりに集中する……する……す……。
「これからもショートがいてくれたら助かるな。ううん、わがまま言っちゃだめだよね。でも、ショートいる間はお父さんも……私も楽しいから」
集中できるか──────────ッ!!
結局、ブルストの実践は全く頭に入ってこなかったので、この光景を記録魔法ウツシトールで撮影し、後で復習することにしたのだった。