雨季になると蚊が増えてくる。
こいつらが疫病を運んできたりするので、大変厄介なのだ。
「蚊帳でも作らないとなあ」
俺は冬が大嫌いな人間だったので、勇者村が南国であることはとてもありがたいことだ。
だが、蚊だけはどうにかせねばならない。
我が村には赤ちゃんや子どもがいるからな。
「……ということで、手前村に材料を交換に行こうと思うのだが」
「あ、私も行くー。リタとピアとビンちゃんの服ね、大きいのを作らなきゃって思ってたの」
「子どもは成長するもんなあ」
「ほんとにねー。私もここ何年かでグーッと大きくなったんだけど」
そう言えば、カトリナもちょっと前までは子どもの扱いだったのだ!
今の落ち着いた俺の奥さんという様子からは、想像もできんな。
小さいカトリナには一回会っているはずだが、詳細には思い出せない。
思い出そうとすると、照れたカトリナにペチペチされて記憶が飛ぶ。
「わたしの服ですか!?」
教会の仕事が暇な間、うちに手伝いに来ているリタが目を丸くした。
「今までは、村の子どもの古着を分けてもらってたんです。それでもとっても貴重なものだったんですけど」
「だろうなあ」
この世界では、布や服は高価なのだ。
幸いにも、勇者村や手前村は温暖だったり亜熱帯だったりするので、布地の面積は少なくて済むし、仕立て直しもやりやすい。
北国で成長する子どもに合わせて服を仕立てるなんて考えたら、ゾッとしてくるな……!
「リタもピアも、これからどんどん大きくなるでしょ? 私もね、この三年で30センチ以上伸びたから」
伸びたなあ!!
そう言えば、こっちで会ったばかりの頃のカトリナより、今の彼女はちょっぴり背が伸びてる気がする。
オーガだしな。カトリナくらい小柄な方が珍しいからなあ。
オーガの成人女性は、だいたい人間の成人男性と同じくらいの背丈になることが多いぞ。
ミノタウロスがオーガ族では一番大きいのだ。
ああ、でも、もっと大きい種族でキュクロプス族がいたなあ。
伝承では単眼の鬼という話だったが、実際に会ってみると額にクリスタルみたいな感覚器があるオーガ族だった。
魔法的な感覚器らしくて、意識を集中する時に目を閉じるから、額の感覚器だけが目のように見えるのだ。
伝承は調べてみると、面白い真実があるものだ。
あれは男なら3m近く、女ならば2mちょいあった。
「じゃあ、行こっか、ショート」
考え事をしてたら、目の前までカトリナが来ていた。
彼女は側面を向けて、俺を待っている。
これはつまり……。
お姫様抱っこをしろということだな?
任せたまえ……!
俺は彼女を愛を込めて抱き上げると、そのまま飛んだ。
外はいつも通りのスコールだったが、これは雨よけ魔法アンブレーラ(俺命名)で弾く。
雨よけのために作った魔法だったが、小型の隕石までなら防げるぞ。
風も防げるので、飛行時は便利なのだが、ちょっと視界が遮られるのが玉に瑕だ。
そんなわけで、雨の時しか使っていない。
びゅーっと飛んで、すぐに手前村が見えてきた。
俺たちが近づいていくと、村が騒がしくなってくる。
おお、どんどん人が家の中に入っていく。
まるで災厄でもやってくるかのようじゃないか。
村に降り立ったら、村長が走ってきて、揉み手をした。
「これはこれは勇者ショート様、本日はどんなご用件で……。その、観光客の件はけっして我が村がそちらにけしかけようとした訳ではなくてですね、その」
「ああ、それか。あれはもういいよ。結果的に迎肉祭も盛り上がったしな。今日は別の用件だ。村長、ここ、蚊は出るか?」
「蚊ですか。はあ、出ますな。なので、蚊の好む香りを染み込ませた布を、濡らして天井からぶら下げます」
なるほど。
布に酒も染み込ませて、蚊を引き寄せて酔っ払わせてしまうらしい。
それで朝になったら退治すると。
面白いなあ。
ハエ取り紙の要領だ。
それも蚊対策として考えておかねばな。
「ショート、こっちこっち。ええとね、この間の猪の毛皮と……新しいのがあったでしょ」
「ジャバウォックの皮かあ」
クロロックとともに、肥料づくりのために狩ったジャバウォックだが、皮を持て余していたのだ。
取引所に持ち込むと、ドン引きされた。
だが、ジャバウォックの皮そのものは使い道がありそうだということである。
「ぬめりの中に、しっかりした質感の皮がありそうですからね。革鎧の材料になりそうです」
取引所の人、プロの目でジャバウォックの皮を見定めている。
なるほどー。
ザクザク切って肥料にするしか無いかと思っていたが、なんでもプロに見せてみるものだ。
思わぬ用途が分かった。
だが、とりあえず性能なども不確定ということで、ジャバウォックの皮は猪の毛皮相当の価格で取引することにした。
代金は布と網でもらう。
「ああ、蚊帳を作るんですね」
「そうそう。うちはもう、強烈に雨季でさ。蚊が凄い」
「ああー。手前村はそこまで雨が強烈に降らないですからねえ」
勇者村と手前村では、そう遠くはないのだが、全く気候が違うのだ。
これも不思議だなあ。
勇者村、明らかに亜熱帯というか、熱帯になりかけてるくらいの地域だからな。
カトリナはどっさり布を仕入れてホクホク顔だ。
この後に仕立ての仕事が待っていると言うのに、どうしてそんな笑顔に……?
「私が嬉しそうな理由? だって、新しい服って気持ちがウキウキするでしょ。今から、リタやピアやビンちゃんの喜んでる顔を思い浮かべたら、私も嬉しくなってきちゃうから」
「うーん、うちの奥さんは天使」
惚れ直す勢いですよ。
これは俺も、気合を入れて蚊帳を作らねばなるまい。
内陸にある手前村で網が手に入る理由は、蚊帳と、虫取り網を作るためだ。
この村では、虫を使った料理などもあるのだが……。
俺はそのへんはちょっと苦手なので、チャレンジはまた今度だな……。
さあ、村に戻らねば。
仕事はまだまだ、幾らでもあるのだ!
こいつらが疫病を運んできたりするので、大変厄介なのだ。
「蚊帳でも作らないとなあ」
俺は冬が大嫌いな人間だったので、勇者村が南国であることはとてもありがたいことだ。
だが、蚊だけはどうにかせねばならない。
我が村には赤ちゃんや子どもがいるからな。
「……ということで、手前村に材料を交換に行こうと思うのだが」
「あ、私も行くー。リタとピアとビンちゃんの服ね、大きいのを作らなきゃって思ってたの」
「子どもは成長するもんなあ」
「ほんとにねー。私もここ何年かでグーッと大きくなったんだけど」
そう言えば、カトリナもちょっと前までは子どもの扱いだったのだ!
今の落ち着いた俺の奥さんという様子からは、想像もできんな。
小さいカトリナには一回会っているはずだが、詳細には思い出せない。
思い出そうとすると、照れたカトリナにペチペチされて記憶が飛ぶ。
「わたしの服ですか!?」
教会の仕事が暇な間、うちに手伝いに来ているリタが目を丸くした。
「今までは、村の子どもの古着を分けてもらってたんです。それでもとっても貴重なものだったんですけど」
「だろうなあ」
この世界では、布や服は高価なのだ。
幸いにも、勇者村や手前村は温暖だったり亜熱帯だったりするので、布地の面積は少なくて済むし、仕立て直しもやりやすい。
北国で成長する子どもに合わせて服を仕立てるなんて考えたら、ゾッとしてくるな……!
「リタもピアも、これからどんどん大きくなるでしょ? 私もね、この三年で30センチ以上伸びたから」
伸びたなあ!!
そう言えば、こっちで会ったばかりの頃のカトリナより、今の彼女はちょっぴり背が伸びてる気がする。
オーガだしな。カトリナくらい小柄な方が珍しいからなあ。
オーガの成人女性は、だいたい人間の成人男性と同じくらいの背丈になることが多いぞ。
ミノタウロスがオーガ族では一番大きいのだ。
ああ、でも、もっと大きい種族でキュクロプス族がいたなあ。
伝承では単眼の鬼という話だったが、実際に会ってみると額にクリスタルみたいな感覚器があるオーガ族だった。
魔法的な感覚器らしくて、意識を集中する時に目を閉じるから、額の感覚器だけが目のように見えるのだ。
伝承は調べてみると、面白い真実があるものだ。
あれは男なら3m近く、女ならば2mちょいあった。
「じゃあ、行こっか、ショート」
考え事をしてたら、目の前までカトリナが来ていた。
彼女は側面を向けて、俺を待っている。
これはつまり……。
お姫様抱っこをしろということだな?
任せたまえ……!
俺は彼女を愛を込めて抱き上げると、そのまま飛んだ。
外はいつも通りのスコールだったが、これは雨よけ魔法アンブレーラ(俺命名)で弾く。
雨よけのために作った魔法だったが、小型の隕石までなら防げるぞ。
風も防げるので、飛行時は便利なのだが、ちょっと視界が遮られるのが玉に瑕だ。
そんなわけで、雨の時しか使っていない。
びゅーっと飛んで、すぐに手前村が見えてきた。
俺たちが近づいていくと、村が騒がしくなってくる。
おお、どんどん人が家の中に入っていく。
まるで災厄でもやってくるかのようじゃないか。
村に降り立ったら、村長が走ってきて、揉み手をした。
「これはこれは勇者ショート様、本日はどんなご用件で……。その、観光客の件はけっして我が村がそちらにけしかけようとした訳ではなくてですね、その」
「ああ、それか。あれはもういいよ。結果的に迎肉祭も盛り上がったしな。今日は別の用件だ。村長、ここ、蚊は出るか?」
「蚊ですか。はあ、出ますな。なので、蚊の好む香りを染み込ませた布を、濡らして天井からぶら下げます」
なるほど。
布に酒も染み込ませて、蚊を引き寄せて酔っ払わせてしまうらしい。
それで朝になったら退治すると。
面白いなあ。
ハエ取り紙の要領だ。
それも蚊対策として考えておかねばな。
「ショート、こっちこっち。ええとね、この間の猪の毛皮と……新しいのがあったでしょ」
「ジャバウォックの皮かあ」
クロロックとともに、肥料づくりのために狩ったジャバウォックだが、皮を持て余していたのだ。
取引所に持ち込むと、ドン引きされた。
だが、ジャバウォックの皮そのものは使い道がありそうだということである。
「ぬめりの中に、しっかりした質感の皮がありそうですからね。革鎧の材料になりそうです」
取引所の人、プロの目でジャバウォックの皮を見定めている。
なるほどー。
ザクザク切って肥料にするしか無いかと思っていたが、なんでもプロに見せてみるものだ。
思わぬ用途が分かった。
だが、とりあえず性能なども不確定ということで、ジャバウォックの皮は猪の毛皮相当の価格で取引することにした。
代金は布と網でもらう。
「ああ、蚊帳を作るんですね」
「そうそう。うちはもう、強烈に雨季でさ。蚊が凄い」
「ああー。手前村はそこまで雨が強烈に降らないですからねえ」
勇者村と手前村では、そう遠くはないのだが、全く気候が違うのだ。
これも不思議だなあ。
勇者村、明らかに亜熱帯というか、熱帯になりかけてるくらいの地域だからな。
カトリナはどっさり布を仕入れてホクホク顔だ。
この後に仕立ての仕事が待っていると言うのに、どうしてそんな笑顔に……?
「私が嬉しそうな理由? だって、新しい服って気持ちがウキウキするでしょ。今から、リタやピアやビンちゃんの喜んでる顔を思い浮かべたら、私も嬉しくなってきちゃうから」
「うーん、うちの奥さんは天使」
惚れ直す勢いですよ。
これは俺も、気合を入れて蚊帳を作らねばなるまい。
内陸にある手前村で網が手に入る理由は、蚊帳と、虫取り網を作るためだ。
この村では、虫を使った料理などもあるのだが……。
俺はそのへんはちょっと苦手なので、チャレンジはまた今度だな……。
さあ、村に戻らねば。
仕事はまだまだ、幾らでもあるのだ!