朝。
 ブルストとパメラが妙にツヤツヤしてるので、村のメンバーは全員察するのである。

「なんでじろじろ見るんだ?」

 ブルストは妙に居心地悪そうだ。
 普段そこまで注目されないもんなあ。

 むしろ、注目を浴びているのは彼の横にいるミノタウロスの女だろう。
 牛の頭蓋骨を外すと、その下には立派な横から生えた一対の黒い角。
 そしてウェーブが掛かった黒髪が背中の半ばまで伸びている。

 ほうほう、なかなかの美人さんではないか。
 身長が2mくらいあるから、頭身も高い。
 ブルストと並ぶと絵になるな。

「でな、みんなに言う事がある。パメラがな」

「あたい、雨季が終わるまではここに残ろうかな―って」

 ちょっと照れながら言うパメラに、みんな「だよねー」という顔になった。
 職人二人は、うんうんとうなずき。

「そうだな。まだお祭り職人は不安定な仕事だしなあ。パメラもそろそろ若くなくなってくるから、どこかに居着くのもいいよな」

「若くないって何さ!?」

「うわーやめろパメラー!」

 おっと、凄い失言で朝食の場でどっかんどっかん騒ぎになったぞ。
 だが、ブルストが後ろから、パメラをぐいっと引き寄せた。

「まあまあ、いいじゃねえか。ってことでだ。パメラは俺が引き受ける。いいな?」

「もちろんだ」

「うちのじゃじゃ馬をよろしく頼むぜ」

 ブルストが職人たちとガッチリ握手を交わした。

「新しいお母さんってことになるのかな?」

 カトリナ、動じていない。
 後で聞いたら、パメラのご年齢は二十七歳。
 この世界だと大きい子どもがいて当たり前くらいのお年頃らしい。

 ブルストも三十三歳で、カトリナという成人した娘がいるしな。
 この世界は色々と早い。

 まあ、落ち着ける場所ができて良かったではないか。
 彼女の人格はしっかりと確認しているので、村長である俺としても大歓迎なのだ。

 何より、あの体格……。
 畑作のための強力な仲間がやって来たと言えよう……!!

 そして。
 職人を送り出したその日の昼、晴れていたので、いよいよ麦を乾燥させる作業に取り掛かるのだ。

 雨季になると、一日中雨が降っているような環境になる。
 この間に、大地が栄養を蓄え、植物は芽吹き、動物たちはたっぷりと栄養を蓄えて恋の季節を始める。

 空気はしっとりと湿って、ちょっと重い。
 本来なら、麦を乾燥させる作業には向いていないのかも知れないが……。

「収穫したまま置いておいても腐るからな。火を燃やして空気を無理やり乾燥させて、それで麦を乾かすんだと」

 俺がブレインから聞きかじった知識で説明すると、フックとパメラがふんふん、と頷いた。
 早速実働要員になったパメラである。

 家の裏手にある倉庫では焚き火が幾つも用意されている。
 この周囲で、ひたすら麦を干すのだ。

 使われる材木は、この辺りに自生する油を含んだ樹木。
 ここで、麦が燃えてしまわないように注意しながら干し加減を確認する……。

 それが、ここ数日間の作業だった。

「いきなり地味な作業になったねえ」

「畑仕事なんてのは地味なもんだって」

「そうだったね。あたいの故郷もこんな仕事ばっかりで、あの頃はそれが嫌になって飛び出しちまったんだよね。色々あったけど……村を飛び出してから、この手に残ったのは屋台で串焼きを作るやり方だけだったねえ……」

 パメラが遠い目をしている。

「まあまあ、今はブルストと仲良しになって良かったじゃないか。あのおっさんはいいやつだぞ」

「そうだねえ。いい男だよ!」

 むふふ!と笑うパメラ。
 ここにいるのは既婚者だけだ。
 存分にのろけるがいい。

 さて、作業が始まった。
 といっても、束ねた藁を台に立て掛け、倉庫の中に置いておくだけ。

 薪を絶やさないようにし、倉庫内の乾燥状態を保つ。
 ちょこちょこ換気して、俺たちが窒息しないようにする。
 
 それだけだ。
 ぶっちゃけ地味な仕事だな。

 合間合間で、そろそろ花開く綿花を見に行く。
 花が咲いて実が成って、種子が採れるようになったら収穫だ。

 綿花の収穫も近いんだなあ……。
 スローライフ、本当に仕事だけは幾らでもあるぞ。

 三人メンバーがいるのは、この作業が夜を徹して行われるためだ。
 火を扱うからな。
 今度は上手いこと、乾季のうちに収穫せねば。

 これは反省事項だ。

 三交代制で、乾燥をさせていく。

 その間にパメラを巡る住環境もおおよそ決定してきた。
 パメラはブルストと一緒に、我が家の居間で暮らすことになったのだ。
 二人ともでかいから、個室だと狭すぎるらしい。

 で、それに伴ってブレインが寝床を移動することに。
 今は教会の礼拝堂を借りて、そこで寝泊まりしている。

 すまんなあブレイン。
 ブルストも彼には悪いと思っていて、雨季が終わったら最優先で家を建てる約束をしていた。

「私は気にしていないので大丈夫ですよ。ショートや女王陛下がくれた本もありますし」

 教会の一角が書庫になり、そこにブレインの蔵書が収められるようになった。
 本さえあれば、どこでも暮らしていけるのがブレインという男なのだった。

 最初はクロロック邸を希望していたが、あそこはカエル専用ハウスとして作られているから、人間が住んでいると体を壊しそうな気がする……!
 そう言えば、ブレインの家ができるとして、どういう形がいいだろうな。

 やはりここは……勇者村の図書館……ではないだろうか?
 夢は膨らみ、広がっていくのだ。