ブルストとブレインが、ピアを連れて、お肉づくりの練習をしている。
 俺が手前村の市場で買って来た鳥である。
 生きてる奴を締めることには違いはないが、買って来たホロホロ鳥であるからして、愛着がない分マシであろうということになった。

「うち、がんばりまっす!」

 ピアが両手をぎゅっと握りしめた。

「いいぞ。鳥を締めるのは気合だ」

「鳥を締めるのは理論です」

 いきなりブルストとブレインの話がぶつかり合ってるんだが。

 だが、この二人の中では気合と理論は両立するものらしい。
 互いに、そうだよな、そうですね、と頷きあって、ピアにやり方を教えている。

 いきなりピアにやらせるのか!
 スパルタだな。

 ぽっちゃり食欲娘のピアは、新鮮で美味しい鳥肉のためにとてもモチベーションが高い。

「鳥さんは可哀そうだけど……うち、美味しい鳥肉も大好きだから……っ! ごめんね!!」

「ホロロー!」

 ピアが行ったー!
 行った行った、ピアが行ったー!

 遠く離れたところで、リタとヒロイナが耳をふさいでしゃがんでる。
 ピアが心配で見に来たようだが、まあまあ刺激の強いシーンだよな。

「あー、そう言えば、うちだと猪も普通に食べてたし、私が解体したりもしてたっけ。おんなじなんだね」

 解体風景を見つめるカトリナが、腑に落ちた表情をする。
 そう、問題は愛着であって、やる事は変わらないのだ。

 俺たちは他の動物を殺して食わなければ健康に生きていけないので、どこかでこれをやらなければいけない。
 目が届かないところで他人がやってくれて、いきなり肉の形として向き合うのもいい。
 しかしそれは、誰かが屠殺という作業をやってくれているのだ。

 こうやって目の前で、肉が作られていく様子を見るというのは大切だな。
 血の一滴だって無駄にしないようにせねば、という思いが湧き上がってくる。

 実際、ホロホロ鳥は、肉は美味いし卵も美味いし、内蔵も煮込むと全部食べられるし、骨からは出汁が出る。
 皮からはたっぷり油が採れるし、羽毛は布に詰めればふかふかのクッションになる。
 飾りに使ってもいいな。

 捨てるところなどない。

 ブルストとブレインの教えを受け、ピアはたっぷり二時間ほど掛けて、作業を終えた。
 全部終わった後、彼女は気が抜けたようで、ポテンと地面に尻餅をつく。

「ふいー……つ、つかれたあ」

「よくやったな、ちびすけ! カトリナだってこんな小さいうちから解体はしなかったぞ!」

「大したものです。技量はこれから身につくでしょう。ですが何より大切なのはあなたのその情熱です」

「えへへ」

 とても褒められて照れるピア。
 ここは俺が、数少ないレパートリーであるモツ鍋をご馳走してやるしかあるまい。

「ピアは褒められるだけのことをしたのだ。かなり偉い。よーし、今回は俺が、ホロホロ鳥の内臓の煮物を作ってやろう……。ピアは一番最初に匙をつける権利がある」

「ほんと!? やったー!!」

 おおはしゃぎのピア。
 だが、その前に血と脂でどろどろになった作業着を着替え、風呂に入ってもらわねばなるまい。

「わ、わたしがお風呂につれてきます!!」

 おっ、気丈な感じでリタが来た。
 まだ顔は青いが、その目にはピアへのリスペクトが溢れている。

「はあ……。じゃああたし、祈っておくわ。行ってらっしゃい」

 ヒロイナがよろよろやって来て、食材になったホロホロ鳥へと祈った。

「後で鳥塚作らなくちゃ。お墓」

「あ、そう言えばそういうのも必要だったな」

 かくして、迎肉祭への準備は着々と進んでいくのだ。



 翌日のこと。
 どこで話を聞きつけたのか、統一感の無い男女の一団がやって来た。

「お祭りだって聞いたから来たんだけど、こんなちっちゃい村だったのかい!」

 その中でも一際目立つ女がいる。
 背丈はでかい。
 俺よりも頭ひとつくらいでかいから、2m近いんじゃないか。

 牛の頭蓋骨を被っていて、しかし横からは自前のものらしい角が突き出している。
 これは、ミノタウロスだな。
 オーガ族の一種で、頭の横から立派な角が伸びる種族だ。

 牛の頭蓋骨をかぶる風習があるので、牛頭人身の怪物だと思われる事が多い。

 今回の彼女は、牛の骸骨は半分だけしか被ってないので、顔がむき出しだった。
 野性味のある美女である。

「なんだなんだ」

 俺が出てきて問うと、一団はハッとした。

「勇者ショートだ」

「本当に勇者の村だったんだなあ……」

 男たちが俺に対して、尊敬とか畏敬の目を向けてくる。
 だが、ミノタウロスの女はなかなか気丈な感じである。

「勇者……? このちびがねえ。ふーん」

 言っておくが俺は平均身長である。ちびではない。この女がでかいのだ。
 カトリナがオーガとしては小柄なので、すっかり忘れていた。
 オーガ族はでかい。

「戦いは背丈でするわけじゃないからな。魔王マドレノースの本体は20mくらいあったが、それと比べると俺もお前も背丈的には誤差だろう」

「20m……!?」

「こう」

 俺が記録魔法ウツシトールで保存してあった、マドレノース戦を上映してみせる。
 巨体から魔力を発し、一歩進むだけで周囲を焦土に変え、瘴気で空気と大地を腐らせ、天に向かって火山雷めいた魔力光をぶっ放し、体に浮かんだ無数の顔で同時に808の魔法を行使する魔王マドレノース。

 対するのが、エクスラグナロクカリバーを構え、決戦巨大化魔法ジュワッチ(俺命名)によって10mの巨人となった俺。
 まあまあ、神々による世界の命運を賭けた戦いのような光景である。

 これを見て、ミノタウロスの女がぺたんとへたり込んだ。

「あわわ」

「おっと、1分以上見ると意識を持っていかれるからな」

 映像を終える俺。
 過ぎた過去のことだ。

「どうだ、大きさなんか些細な問題だろう」

 俺は優しく微笑んだ。
 やって来た男女が、みんな神妙な顔で頷く。

「で、お前らなんだ」

「あたいらはね、お祭り職人さ」

「お祭り職人……?」

「北にお祭りありと聞けばやって来て店を開き、南にお祭りありと聞けばやって来て芸を見せる! そういう集まりさね」

 旅芸人とか、テキ屋みたいなものなんだな。
 迎肉祭の噂を、手前村で聞いたんだろう。

「だけど、せっかく来たからには盛り上げて帰るのが職人の仕事だよ。あたいはパメラ。よろしく、勇者ショート」

「おう」

 握手を交わす。
 手もでかいな!

 そんな事をしていると、ミノタウロスのパメラよりでかいのが家から出てきた。
 ブルストだ。

「おー! お祭り職人じゃねえか! ……だけど勇者村は金が動かないぞ? 職人が来ても出番が無いんじゃねえのか?」

 もっともだ。
 それでも、どうやらお祭り職人たちはここでお祭りを盛り上げる腹づもりのようである。
 せっかく来たんだし、ということらしい。

「それに、手前村にも人が集まっててね。勇者村に遊びに行こうって話になってるんだよ」

 パメラがとんでもないことを言った。

「なんだって」

「勇者ショートが作った村で、お祭りがあるんだろ? そりゃあ観光に来るやつがいるさ」

「むむむむむ、大事になって来てしまった。観光客はいらんのだがなあ……」

 かくして、規模を拡大しつつ、迎肉祭の日が近づくのである。