「大変ですショートさん」

「どうしたどうした。あっ、クロロックが背負っているのはハナメデル皇子ではないか」

「倒れました」

「いきなり肥料づくりはハードルが高かったかあ」

 ということで、ハナメデルはこの間までヒロイナが泊まっていた部屋に寝かせた。
 ここは客間にしてあるのだ。

 ブルストからすると、部屋が少々窮屈らしく、ブレインも特に個室にこだわったりしないので、しばらくこちらはハナメデル専用としておく。
 臭いがついたらよろしくないので、皇子を脱がして風呂に入れ、頭を洗ってよく水気を拭き取り、寝間着に着替えさせてベッドに寝かせた。

「ショート、今凄い手慣れた動きで皇子様を寝かしつけたねえ」

 カトリナが目を丸くしている。

「うむ。グンジツヨイ帝国に加勢していたころ、ハナメデルはよく過労でぶっ倒れたからな。慣れている」

「いやあ……面目ない。肥料づくりは思った以上に体力勝負なんだねえ……」

 布団の中で、ハナメデルがか細い声を出す。

「うむ。お前の基礎体力の無さを侮っていた。終戦後、またちょっと弱くなったんじゃないか?」

「実は過労のツケで倒れてね。半年近く寝込んでいたんだ」

「なるほど。では肥料どころではないな」

「面目ない」

「いやいや。俺の仕事は、お前に体力をつけさせ、トラッピアに負けないように鍛え上げることだ」

 俺は鼻息を荒くした。
 俺の身を守るためにも、トラッピアの夫になろうという奇特な男を鍛えねばならぬ。

「だけど、この僕の体力で何ができるんだい?」

「なに、こういう小さい村というのは幾らでも仕事がある。負荷が少ないが、絶対に必要な仕事と言えば例えば……」





「げえええっ!? なんで教会の小間使いをグンジツヨイ帝国のハナメデル殿下がやるの!?」

 ヒロイナが目を見開いて、プラチナブロンドの美少女が上げてはならぬ叫びを漏らした。

「労働負荷が低いが、重要度が変わらない仕事ということで紹介したのだ。リタ、ピア、ハナメデルに仕事を教えてやってくれ」

「はいっ!」

「はぁい」

 気が強いリタと、おっとりしたピアで彼女たちらしい返事が上がった。

 教会の仕事と言うのは、主に掃除、水汲み、料理に洗濯……。
 まあ日常的な作業だ。

 だが、ヒロイナが壊滅的にそういう仕事ができないので、リタとピアの二人がかりで日常業務をバリバリこなしているのだった。

「それじゃあ、ハナメデルさん! お洗濯物を干して下さい!」

「やり方おしえますねえ」

 二人の少女が、皇子を連れて教会の裏口に行く。
 がんばれよ、ハナメデル!

 そして俺がフックと二人でバリバリ畑を耕し、麦の苗を植えて畑作を推し進め、昼飯を食ってからまた作業を再開し、そろそろ夕方近いから本日の仕事終わり! となった頃合い。

 さて、ハナメデルはまた倒れてはいないだろうか?
 俺は心配になって見に行った。

 すると、彼がせっせと洗濯物を取り込んでいるところだった。

「おお、無事だったかハナメデル!」

「ショート! どうにかこれくらいはね。二人がとっても働き者なんだ。僕も負けてはいられないよ。ただ、僕が頑張ろうとすると二人が止めてきてね」

「大変だったの!」

「体が弱いんでしょ? 無理しちゃだめだよねえ」

「リタ、ピア、ナイスだ!」

 俺は二人を褒め称えた。
 気遣いのできる子たちだ。
 さすがはあのヒロイナの世話を任されているだけのことはある。

 連れてきたばかりの頃は、まだ子供っぽいところが見られた。
 しかし、彼女たちは自分たちよりも危なっかしく、放置すると無限に堕落しているヒロイナを見て決意したのだろう。
 自分たちがこの司祭を世話しなければならないと。

 偉い。

「今度王都まで行ってお菓子を買ってきてやる……!!」

「ほんとう!?」

「やったあ!」

 飛び上がるリタとピア。
 こういうところはまだ子どもだな。

「ほんと!? やったわ!!」

 お前もか、ヒロイナ!
 こいつはこいつで、魔力を使って教会そのものがもつ神聖力とでも言うべきものを高めていっている。

 司祭が日々祈りを捧げることで、その祈りの力を教会が貯めていくのだ。
 これによって教会は、神聖魔法を使うための電池みたいな働きをするようになる。

 この教会は特に、勇者パーティに加わった司祭ヒロイナの祈りが詰まっているので、復活の神聖魔法すら使える様になるかも知れないな。
 こんな小さな村の教会が……。

 願わくば、そんな魔法は使わずに済ませられるようになりたいな。
 ちなみに俺は単体で、確定で人を復活させられる復活魔法ヨミガエール(俺命名)を使えるぞ。
 だが、死んだ人間を蘇らせると必ずどこかに障害が残るからな。おすすめはしない。

「よし、帰るぞハナメデル。お前ができそうな労働をピックアップしていく。そして体力の付き方に応じて、徐々に労働の強度を上げていくんだ」

「分かったよ、ショート。それじゃあね、リタ、ピア。今日はありがとう」

「皇子様またねー!」

「いつでも手伝いに来てねえ」

 すっかり二人と仲良しになってしまったな。
 皇子に惚れるなよ……?
 この男、美形で能力があって人格者という、体力以外は完璧超人だからな?

 その辺りも考えねばならんな……。
 考え事をしながら家に帰ると、カトリナが出迎えてくれた。

「お帰りなさいショート! 皇子様! お父さん!」

「えっ、いつの間にブルストが!?」

「俺は常に教会の仕上げ作業をしてるからな。ショートが来たからついでに戻ってきたんだぞ」

「これはすまん、気付かなかった……!!」

「がはははは、いいってことよ!」

「ショートは何か考え事をしてたみたいだ。何を考えていたんだい?」

「いやな、ハナメデルはめちゃくちゃモテるだろ? リタとピアがお前に惚れないかなって心配でな……。絶対悲恋になるやつじゃん」

「そうなのかい? 僕はそこまで女性に好かれるとは思えないなあ」

「だな。ショート、お前、自分を基準にし過ぎだぞ。この皇子様お前と並び立って魔王軍と戦った軍師なんだろ? そんな次元が違う奴、恋愛対象として見れねえだろ」

 それはブルスト、間接的に俺を褒めてないか?
 褒めても何も出ないぞ……。

「あっ、ショートがニヤニヤしてる! もう! みんな、お料理冷めちゃうから早く入って! お夕食にしよう!」

 ということで、今日の仕事は終わっていくのである。