朝。
爽やかに目覚めた俺。
寝床は空き部屋を使わせてもらい、運び込んだ枯れ草を敷き詰めてベッドとした。
そりゃあもう、夜空の天井じゃないというのは最高だ。
雨に備えなくてもいいし、風だって吹きつけてこない。
大の字になって爆睡し、日の出とともに目覚めた。
「モンスターの気配で起きなくていいのはいいな! 文明的って感じがする!」
どうやら起きるのは俺が一番早かったようだ。
外の水瓶から必要分を器に移し、顔をざぶざぶ洗う。
「おう、早えな!」
「おはようブルスト! これから水汲みだろ?」
「おう。何往復かするぞ。瓶の容量には限界があるからな」
ブルストが用意したのは、背負うタイプのちょいと変わった形の瓶だ。
ふむ、俺の収納魔法アイテムボクース(俺命名)を使えば小さな湖ひとつ分くらいの水は全て溜め込んでおけるが……。
「郷に入れば郷に従えと言うしな! 瓶で行こう、瓶で。ここで勇者の力を使ってもやっぱり役立たないかも知れん」
「勇者?」
「なんでもない。今の俺は、水運び人シュートだ」
ブルストとともに、俺は出発した。
何事もなく小川まで到着する。
ここで水を汲み、ぐんぐん汲み。
「いっぱいになってしまったな」
「ああ。だからこれで往復しなきゃならん。朝の日課ってやつだな。昨日まではおれ一人でやってたが……」
「おう。俺がいるから効率は二十倍……いや、十倍だな」
「でかいこと言うなあお前……!」
ブルストが目を丸くした。
「ハハハ」
謙遜したつもりだが、まだ謙遜が足りないようだ。
魔法を使えば一瞬だが、ここは足を使って地道にやり、ペースを掴むべきであろう。
「おいおいショート、そんななみなみと注いで、大丈夫か? 重いぞ、水は」
「ハハハ。心配してくれてありがとう。あんたは良い奴だなあ」
俺は笑って応じた。
「おいおい、おれを褒めても何もでねえぞ?」
ブルストが照れてるな。
褒められ慣れてないな、おっさん。
俺は軽率に褒めるぞ……!
「まあ、行こうぜ師匠」
「師匠!?」
「あんたは俺の、スローライフの師匠だろう?」
「うへへ、し、師匠か。悪くねえな」
おう、照れる照れる。
ということで、照れるブルストと二人で水を運ぶのだった。
二人がかりだと、三往復ほどで一日分だ。
「お前、体格の割にパワーがあるな。水をいっぱいに溜めた瓶を背負っても、足腰がしっかりしてやがる」
「レベルが高いからな」
「レベル……? お、おう。体力的なレベルは高いな」
おっと、いかんいかん。
この世界、レベルという概念はあるんだが……みんな自分にレベルがあるということを認識していないのだ。
俺がこの世界に召喚された時に得た能力は、レベルを認識することだったと言っていいだろう。
このお陰で、意識してレベルを上げることができた。
俺はどんどん強くなり、やがて無数のスキルを手に入れ、ついにレベル限界突破に至った。
そして俺は……ほぼ一人で魔王を倒したのだ。
まあ仲間たちはレベル限界突破してなかったし、レベルを認識してなかったからな。
仕方ない。
彼らは努力した。レベル限界を抱えながらよく頑張った。そこは認める。
だがヒロイナ、いつの間にパワースと付き合ってたんだ!
いや、仲良くなる機会は何度かあったものの、基本的に極めて奥手である俺が声を掛けなかったために横からパワースにかっさらわれた気もする。
パワースも悪いやつじゃないんだが、あいつ陽キャだからな……。本来は俺とは相容れぬ存在。一度は決着を……いかんいかん、俺とあいつではティラノサウルスと芋虫ほどの戦力差がある……。獅子はウサギを狩るためにも全力を尽くすと言うが、ティラノサウルスが芋虫を狩るために全力は尽くさないだろ……。
「どうしたショート。おっそろしい顔をしてるぞ」
ブルストが気を遣って声を掛けてきた。
「すまん。内なる闇と戦っていた……」
「そうか。詮索はしないが、生きてりゃ色々あるもんだからな」
「ああ、全くだ」
「……お前、なんつうかまだ若いくせに達観した顔をするなあ」
「なに、失ってから初めて、あの時ああすりゃよかったなあなんて考えてしまうどこにでもいる男だ」
「ああ、あるある」
ブルストが俺の背中をバンバン叩いた。
この男、聞き上手だな。
心が安らかになる……。
ちなみに俺たちが今何をしているかと言うと、瓶を火にかけて煮沸している。
こうして消毒して飲めるようにするわけだな。
で、使えるようになった水は蓋をして余計なものが入らないようにしておく。
「お父さん、ショート、朝ごはんだよー!」
カトリナが呼びに来た。
「ショートは昨日、いっぱい食べたでしょ? 今日はね、大盛りにしておいたから」
「ほんとか!!」
「ほんとだよー」
カトリナの笑顔が眩しい。
ああ、闇に染まっていた心を照らし出してくれるようだ。
さようなら過去!
こんにちは未来!
いただきます朝食!
「うめえうめえ」
「すげえ勢いだな!」
「たくさん食べてね!」
朝食は、山盛りの蒸した芋と、昨日の残りのシチュー。
この土地では炭水化物は芋で取るんだな。
パンって何気に手間暇かかるもんなあ。
よし、じゃあ、俺の当座の目的は、パンを食えるようにすることでどうだろう。
カトリナのシチューをパンで食ったら、美味いと思うのだ。
パンを食うためには……パンを作らねばならんな。
あれ? パンって何でできてるんだ? 小麦? 小麦を水でこねるんだっけ。
まあいいか!
俺の思考は食欲に飲み込まれていくのだった。
爽やかに目覚めた俺。
寝床は空き部屋を使わせてもらい、運び込んだ枯れ草を敷き詰めてベッドとした。
そりゃあもう、夜空の天井じゃないというのは最高だ。
雨に備えなくてもいいし、風だって吹きつけてこない。
大の字になって爆睡し、日の出とともに目覚めた。
「モンスターの気配で起きなくていいのはいいな! 文明的って感じがする!」
どうやら起きるのは俺が一番早かったようだ。
外の水瓶から必要分を器に移し、顔をざぶざぶ洗う。
「おう、早えな!」
「おはようブルスト! これから水汲みだろ?」
「おう。何往復かするぞ。瓶の容量には限界があるからな」
ブルストが用意したのは、背負うタイプのちょいと変わった形の瓶だ。
ふむ、俺の収納魔法アイテムボクース(俺命名)を使えば小さな湖ひとつ分くらいの水は全て溜め込んでおけるが……。
「郷に入れば郷に従えと言うしな! 瓶で行こう、瓶で。ここで勇者の力を使ってもやっぱり役立たないかも知れん」
「勇者?」
「なんでもない。今の俺は、水運び人シュートだ」
ブルストとともに、俺は出発した。
何事もなく小川まで到着する。
ここで水を汲み、ぐんぐん汲み。
「いっぱいになってしまったな」
「ああ。だからこれで往復しなきゃならん。朝の日課ってやつだな。昨日まではおれ一人でやってたが……」
「おう。俺がいるから効率は二十倍……いや、十倍だな」
「でかいこと言うなあお前……!」
ブルストが目を丸くした。
「ハハハ」
謙遜したつもりだが、まだ謙遜が足りないようだ。
魔法を使えば一瞬だが、ここは足を使って地道にやり、ペースを掴むべきであろう。
「おいおいショート、そんななみなみと注いで、大丈夫か? 重いぞ、水は」
「ハハハ。心配してくれてありがとう。あんたは良い奴だなあ」
俺は笑って応じた。
「おいおい、おれを褒めても何もでねえぞ?」
ブルストが照れてるな。
褒められ慣れてないな、おっさん。
俺は軽率に褒めるぞ……!
「まあ、行こうぜ師匠」
「師匠!?」
「あんたは俺の、スローライフの師匠だろう?」
「うへへ、し、師匠か。悪くねえな」
おう、照れる照れる。
ということで、照れるブルストと二人で水を運ぶのだった。
二人がかりだと、三往復ほどで一日分だ。
「お前、体格の割にパワーがあるな。水をいっぱいに溜めた瓶を背負っても、足腰がしっかりしてやがる」
「レベルが高いからな」
「レベル……? お、おう。体力的なレベルは高いな」
おっと、いかんいかん。
この世界、レベルという概念はあるんだが……みんな自分にレベルがあるということを認識していないのだ。
俺がこの世界に召喚された時に得た能力は、レベルを認識することだったと言っていいだろう。
このお陰で、意識してレベルを上げることができた。
俺はどんどん強くなり、やがて無数のスキルを手に入れ、ついにレベル限界突破に至った。
そして俺は……ほぼ一人で魔王を倒したのだ。
まあ仲間たちはレベル限界突破してなかったし、レベルを認識してなかったからな。
仕方ない。
彼らは努力した。レベル限界を抱えながらよく頑張った。そこは認める。
だがヒロイナ、いつの間にパワースと付き合ってたんだ!
いや、仲良くなる機会は何度かあったものの、基本的に極めて奥手である俺が声を掛けなかったために横からパワースにかっさらわれた気もする。
パワースも悪いやつじゃないんだが、あいつ陽キャだからな……。本来は俺とは相容れぬ存在。一度は決着を……いかんいかん、俺とあいつではティラノサウルスと芋虫ほどの戦力差がある……。獅子はウサギを狩るためにも全力を尽くすと言うが、ティラノサウルスが芋虫を狩るために全力は尽くさないだろ……。
「どうしたショート。おっそろしい顔をしてるぞ」
ブルストが気を遣って声を掛けてきた。
「すまん。内なる闇と戦っていた……」
「そうか。詮索はしないが、生きてりゃ色々あるもんだからな」
「ああ、全くだ」
「……お前、なんつうかまだ若いくせに達観した顔をするなあ」
「なに、失ってから初めて、あの時ああすりゃよかったなあなんて考えてしまうどこにでもいる男だ」
「ああ、あるある」
ブルストが俺の背中をバンバン叩いた。
この男、聞き上手だな。
心が安らかになる……。
ちなみに俺たちが今何をしているかと言うと、瓶を火にかけて煮沸している。
こうして消毒して飲めるようにするわけだな。
で、使えるようになった水は蓋をして余計なものが入らないようにしておく。
「お父さん、ショート、朝ごはんだよー!」
カトリナが呼びに来た。
「ショートは昨日、いっぱい食べたでしょ? 今日はね、大盛りにしておいたから」
「ほんとか!!」
「ほんとだよー」
カトリナの笑顔が眩しい。
ああ、闇に染まっていた心を照らし出してくれるようだ。
さようなら過去!
こんにちは未来!
いただきます朝食!
「うめえうめえ」
「すげえ勢いだな!」
「たくさん食べてね!」
朝食は、山盛りの蒸した芋と、昨日の残りのシチュー。
この土地では炭水化物は芋で取るんだな。
パンって何気に手間暇かかるもんなあ。
よし、じゃあ、俺の当座の目的は、パンを食えるようにすることでどうだろう。
カトリナのシチューをパンで食ったら、美味いと思うのだ。
パンを食うためには……パンを作らねばならんな。
あれ? パンって何でできてるんだ? 小麦? 小麦を水でこねるんだっけ。
まあいいか!
俺の思考は食欲に飲み込まれていくのだった。