久方ぶりに、王都の様子が気になったので、遠距離接続魔法コルセンターを使った。

 いきなりエンサーツの顔がアップになったので、「うわーっ」と驚く俺。

「なんだいきなりコルセンター使いやがって! それで驚くとは失礼だなショート!」

 エンサーツがぷりぷりと怒っている。

「悪い悪い。なんかしばらくそっちを留守にしてたからな。どうだ? 戦争再開した?」

「今の所はどうにか平和だな。ハジメーノ王国を攻めると、勇者が出てきて何もかもひっくり返すって連合国の連中は学んだようだ。その代わり、交流が途絶えて物資が不足しているなあ」

「陰険だなあ」

「それが戦争ってもんよ。お陰で、トラッピア一世陛下が自給自足推奨令を出してだな。王都は今、空前の家庭菜園ブームだ」

「ハジメーノ王国自体がスローライフになったかあ」

 俺が王都から飛び出してきて、半年が経とうとしている。
 その短い間で、なかなかの激変ぶりだ。

「あ、それからな、せっかくお前がこうして顔を出してくれたんだ。一つ頼まれてくれないか」

「なんだなんだ」

「王都で油が不足しててな」

「ちょうどうちのサボテンガーチルドレンが大きくなってきたんだ。後で種を持っていくわ。あいつら油が採れるからな」

「おお、助かる! あとは、ヒロイナがそっちのこと探ってるからな、気をつけろよ」

「げげえ」

 恐ろしい情報を聞いてしまった。
 彼氏であるパワースが、やらかしで投獄されたヒロイナ。
 次なる相手として俺に唾を付けようとしてたのはよく分かった。

 まっぴらごめんである。
 まさか彼女、あんな性格だったとはな。
 恐ろしい恐ろしい……。

 俺の苦手なものがまた一つ増えてしまった。

 ここは一つ、ヒロイナ避けとしてうちの奥さんにお願いしよう。

「カトリナさん」

「はーい。後ろで見てたよ」

 話が早い!
 俺とエンサーツの喋る声が聞こえたので、それを眺めていたらしい。

「俺がヒロイナの魔手にかからぬよう、守って下さい」

「もちろん! 夫を守るのは妻の務めだもん」

 どーんと胸の上あたりを叩いて見せるカトリナ。
 とても頼もしい。

 そういうわけで、彼女をお姫様抱っこしつつ、サボテンガーの種を持って王都へと向かった。
 ついでに、もうすぐ赤ちゃんが生まれるミーのために、赤ちゃん用品を買うという目的もある。

「おっと、金が無いんだったな。ちょっと換金していくか」

「手前村だね」

「そうそう」

 勇者村の手前村に降りて、サボテンガーの種の一部を換金する。
 手前村でも油が不足してきているようで、大変喜ばれた。

 油を使わない料理はバリエーションが減るからな……!!

 じゃらじゃらとお金をポケットに、やって来ました王都。
 エンサーツと待ち合わせたのは、取引所の裏手である。

 そこに降り立つと、見慣れたスキンヘッドと、見慣れたくないのに見慣れた豪奢な金髪の美少女がいた。

「ト、トラッピア!!」

「せっかくショートが来ると言うから、仕事を大至急終わらせて来たのよ!!」

「すまんなショート。流石に最高権力者からの要請は断れん……」

 エンサーツが実に申し訳無さそうである。
 こいつも王宮務めだしな。
 仕方ない……。

「これ、約束の種」

「おお、すまんな。国家の重大事だから、トラッピア陛下に報告しないわけにはいかなかったんだ」

「ええ! わたし、ショートには感謝しているわ! このサボテンガーを王都中に増やして、油を採取できるようにすることを誓いましょう! お礼と言っては何だけど、王配の地位が空いているのだけど……」

「ストーップ!!」

 俺とトラッピアの間に、カトリナがむぎゅーっと入り込んできた。
 圧倒的パワーで、女王トラッピアをふっ飛ばして転がす。

「ウグワー!」

 女王陛下があげてはならん悲鳴をあげたな。

「人の夫を堂々と不倫に誘わないで!」

「不倫!? 女王の王配になることは光栄なことに決まってるじゃない!!」

「だったらあたしは略奪愛がいい!!」

 新しい女の声だ!
 で、出たー!!
 ヒロイナ!!

 プラチナブロンドの、見た目は美少女、中身は打算と腹黒でドロッドロな司祭、ヒロイナである。
 俺の天敵その二と言えよう。

「セキュリティはどうなっておるんだねエンサーツくん!!!」

 俺は目を血走らせながらエンサーツに抗議した。

「すまんな。勇者の仲間を務めたレベルの、強力な司祭を食い止められるような奴はこの国にはいないんだ」

「なん……だと……!?」

「ショート! あたしに会いに来てくれたのね!」

「違う! ショートはわたしの王配になりに来たのだ!」

「違うよ! ショートは赤ちゃん用のグッズを買いに来たの!」

 カトリナの一言で、トラッピアとヒロイナが凍りついた。
 ぬうー、一撃必殺。
 二人に対して圧倒的アドバンテージを持つ、まさに天敵、カトリナ。

「ああああああああ、赤ちゃん!?」

「まままままままさか、あたし以外の女とそんな」

 面白いから真実は教えないでいてやろう……。

「グハハハハ、ご想像におまかせします!!」

 俺はそれだけ告げると、カトリナと手をつなぎ、エンサーツを引き連れて買い物にでかけるのだった。
 後ろから、ゾンビのようになった二人が追ってくる。

 買い物ついでに、王都の様子も見回って行こう。