よく考えたら物々交換で十分だったし、貨幣を使う先も丁字路村……いや、今は勇者の手前村だったか。そこでしか使わない。
万一に備えて金はあってもいいが、そもそも何もかも自給自足できることを目指しているので、いらないとも言える。
「貨幣経済、なし!!」
俺は決定した。
勇者村村長である勇者ショートの決定である。
他の村人も、みんな賛成だった。
「そうだねえ。お金は使わないもんねえ」
カトリナがうんうん頷いている。
「それに、欲しい物があったらショートが作ってくれそう」
「ああ。俺は手先の器用さは並だが、それをカバーするために魔法を使ったり、ブレインに外注したりするからな……!」
「パーティの縫い物や修理は私の担当でしたからね」
賢者ブレイン、何気になんでもできる男。
そのブレインすらもが舌を巻く、畑作と肥料づくりの専門家がクロロックだ。
「ここは天然資源の宝庫です」
クロロックが静かに口を開く。
「肥料を作り、畑作をするために必要な全てのものが、森や川から得られるのです。素晴らしい……。開拓が一段落したら、ショートさん、資材調達に行きましょう」
勇ましく、クロクローと喉を鳴らすクロロック。
肥料や畑関連をブレインに任せておけるようにもなったので、彼はさらなる肥溜めのパワーアップを狙っているようだ。
確かに、クロロックの肥料を使うようになってから、明らかに作物の育ちが良くなった。
だが、このカエルの学者からすると、この程度の肥料の仕上がりはまだまだ序の口だと言う。
「貨幣経済は不要……その通りです。お金では手に入れることができない、貴重な財産がこの森には眠っているのです。それを手に入れ、肥料をより豊かなものにしていくことこそがワタクシたちには求められている」
吸盤のついた指先で、ぎゅっとふにふにな拳を作るクロロックなのだった。
「なるほど……。俺たちはまだ、この森のことを何も知らないのかもしれないな……! 行くか、クロロック!」
「ええ、ショートさん」
「ホロホロー!」
「トリマルも来てくれるか!」
「ホロー!」
多分、勇者村で二番目の戦闘力を誇るトリマルである。
彼がともに来てくれるならば、怖いものなどない。
さあ、森の奥に出発だ……!!
「おーい! 家ができたぞー!」
ちょうど盛り上がってるところで、ブルストが呼びに来た。
新たなる家の完成は、村にとって大きなイベントである。
肥料はまあ、後でいいよねという話になり、みんなで家を見に行った。
場所は、俺たちの家のすぐ隣。
畑の近くだな。
そこに、一回り小さいログハウスが完成していた。
「人間サイズだからな。あまりでかくはしてないぜ。一応、部屋は二つ作ってある。それから……この勝手口から、うちの勝手口まで直通だ」
「おおーっ!」
いつの間にそんなものを作っていたのか。
我が家の寝室と寝室の間にある扉から、削った板を並べて作った道が続く。
道には可愛らしい屋根があって、それは我が家と、新しい家を繋いでいた。
「ついに俺たちの家ができたんだなあ……」
「うん。なんか感激だねえ」
フックとミーも、ジーンと来ているところだ。
ちなみにこの、お勝手が繋がっている構造だが、我が家からすぐに二人の家にいけるようにしているとのこと。
「ミーはもうすぐ赤ちゃんが生まれるでしょ。そうしたら、お手伝いに行ってあげないと。ここが繋がってたら、いつでもすぐに行けるし、そっちからもすぐ来れるでしょ」
なるほど、この勝手口を繋ぐ通路は、カトリナの発案か。
なんたる優しさ!!
「さっすが俺の嫁……」
「や、やだショートったら……!」
俺が思わず呟いたら、カトリナが赤くなって俺の胸板をぺちぺち叩いた。
照れると何かと叩く癖があるな?
「ありがとうね、カトリナ!」
ミーが感激して、カトリナに抱きつく。
「いいんだよー。困った時はお互い様。元気な赤ちゃん産んでね」
「うんうん! カトリナだって予定あるでしょ! そしたらあたしが取り上げてあげるからね!」
「まっ、まだ先だよー!!」
照れるカトリナ。
思わずポカポカやりそうになり、ハッとした顔になる。
振り上げた拳の行きどころはどこだ!
俺である。
「よしカトリナ。俺を照れ隠しにポカポカやれ! なあに、俺のレベルならカトリナの打撃ではダメージが通らないから気にするな!!」
「ありがとうショート! えーい!」
存分にポカポカされた。
これをじっと見ているクロロックとブレイン。
「ふむ、あれが人族の習慣なのですね。勉強になります」
「違うと思います」
間違った知識を得そうになったクロロックに、ブレインが即座の訂正を入れる。
「そうかそうか、カトリナにも子どもがなあ。すると、俺はおじいちゃんになっちまうな! がははははは!」
ブルストは大変嬉しそうである。
こいつもまだ若そうだし、枯れるには早いんじゃないかなーと思ったりもするのだが……。
「ちなみにブルストは今何歳なのだ」
「三十三だ」
「若い!!」
俺は衝撃を受けた。
この世界の成人は十五歳なので、カトリナはブルストが十八の頃の子どもということか……。
俺は若作りだが、異世界召喚される前は、一応高卒ながら就職活動をしていた身である。
俺ともそこまで大きく年が離れていないのだな、この義父。
フックとミー夫婦も、二人とも十代だし、この世界は人生のサイクルが早い……!
だが、なればこそ、ブルストが枯れてしまうのは早いかなと思う俺。
世話になったこの男に、何かいい目を見せてやりたいな。
どうしたものかと考えるのであった。
万一に備えて金はあってもいいが、そもそも何もかも自給自足できることを目指しているので、いらないとも言える。
「貨幣経済、なし!!」
俺は決定した。
勇者村村長である勇者ショートの決定である。
他の村人も、みんな賛成だった。
「そうだねえ。お金は使わないもんねえ」
カトリナがうんうん頷いている。
「それに、欲しい物があったらショートが作ってくれそう」
「ああ。俺は手先の器用さは並だが、それをカバーするために魔法を使ったり、ブレインに外注したりするからな……!」
「パーティの縫い物や修理は私の担当でしたからね」
賢者ブレイン、何気になんでもできる男。
そのブレインすらもが舌を巻く、畑作と肥料づくりの専門家がクロロックだ。
「ここは天然資源の宝庫です」
クロロックが静かに口を開く。
「肥料を作り、畑作をするために必要な全てのものが、森や川から得られるのです。素晴らしい……。開拓が一段落したら、ショートさん、資材調達に行きましょう」
勇ましく、クロクローと喉を鳴らすクロロック。
肥料や畑関連をブレインに任せておけるようにもなったので、彼はさらなる肥溜めのパワーアップを狙っているようだ。
確かに、クロロックの肥料を使うようになってから、明らかに作物の育ちが良くなった。
だが、このカエルの学者からすると、この程度の肥料の仕上がりはまだまだ序の口だと言う。
「貨幣経済は不要……その通りです。お金では手に入れることができない、貴重な財産がこの森には眠っているのです。それを手に入れ、肥料をより豊かなものにしていくことこそがワタクシたちには求められている」
吸盤のついた指先で、ぎゅっとふにふにな拳を作るクロロックなのだった。
「なるほど……。俺たちはまだ、この森のことを何も知らないのかもしれないな……! 行くか、クロロック!」
「ええ、ショートさん」
「ホロホロー!」
「トリマルも来てくれるか!」
「ホロー!」
多分、勇者村で二番目の戦闘力を誇るトリマルである。
彼がともに来てくれるならば、怖いものなどない。
さあ、森の奥に出発だ……!!
「おーい! 家ができたぞー!」
ちょうど盛り上がってるところで、ブルストが呼びに来た。
新たなる家の完成は、村にとって大きなイベントである。
肥料はまあ、後でいいよねという話になり、みんなで家を見に行った。
場所は、俺たちの家のすぐ隣。
畑の近くだな。
そこに、一回り小さいログハウスが完成していた。
「人間サイズだからな。あまりでかくはしてないぜ。一応、部屋は二つ作ってある。それから……この勝手口から、うちの勝手口まで直通だ」
「おおーっ!」
いつの間にそんなものを作っていたのか。
我が家の寝室と寝室の間にある扉から、削った板を並べて作った道が続く。
道には可愛らしい屋根があって、それは我が家と、新しい家を繋いでいた。
「ついに俺たちの家ができたんだなあ……」
「うん。なんか感激だねえ」
フックとミーも、ジーンと来ているところだ。
ちなみにこの、お勝手が繋がっている構造だが、我が家からすぐに二人の家にいけるようにしているとのこと。
「ミーはもうすぐ赤ちゃんが生まれるでしょ。そうしたら、お手伝いに行ってあげないと。ここが繋がってたら、いつでもすぐに行けるし、そっちからもすぐ来れるでしょ」
なるほど、この勝手口を繋ぐ通路は、カトリナの発案か。
なんたる優しさ!!
「さっすが俺の嫁……」
「や、やだショートったら……!」
俺が思わず呟いたら、カトリナが赤くなって俺の胸板をぺちぺち叩いた。
照れると何かと叩く癖があるな?
「ありがとうね、カトリナ!」
ミーが感激して、カトリナに抱きつく。
「いいんだよー。困った時はお互い様。元気な赤ちゃん産んでね」
「うんうん! カトリナだって予定あるでしょ! そしたらあたしが取り上げてあげるからね!」
「まっ、まだ先だよー!!」
照れるカトリナ。
思わずポカポカやりそうになり、ハッとした顔になる。
振り上げた拳の行きどころはどこだ!
俺である。
「よしカトリナ。俺を照れ隠しにポカポカやれ! なあに、俺のレベルならカトリナの打撃ではダメージが通らないから気にするな!!」
「ありがとうショート! えーい!」
存分にポカポカされた。
これをじっと見ているクロロックとブレイン。
「ふむ、あれが人族の習慣なのですね。勉強になります」
「違うと思います」
間違った知識を得そうになったクロロックに、ブレインが即座の訂正を入れる。
「そうかそうか、カトリナにも子どもがなあ。すると、俺はおじいちゃんになっちまうな! がははははは!」
ブルストは大変嬉しそうである。
こいつもまだ若そうだし、枯れるには早いんじゃないかなーと思ったりもするのだが……。
「ちなみにブルストは今何歳なのだ」
「三十三だ」
「若い!!」
俺は衝撃を受けた。
この世界の成人は十五歳なので、カトリナはブルストが十八の頃の子どもということか……。
俺は若作りだが、異世界召喚される前は、一応高卒ながら就職活動をしていた身である。
俺ともそこまで大きく年が離れていないのだな、この義父。
フックとミー夫婦も、二人とも十代だし、この世界は人生のサイクルが早い……!
だが、なればこそ、ブルストが枯れてしまうのは早いかなと思う俺。
世話になったこの男に、何かいい目を見せてやりたいな。
どうしたものかと考えるのであった。