と、いうことで……飯だ。
 俺が割った薪は油を含んでるんで、すぐに使って燃やし、その火力で豪快に煮込んだシチュー。

「うひょお、まさかこんな辺鄙(へんぴ)なところに来て、シチューが食えるとは思わなかったぜ!」

 きのこと芋を煮込み、恐らくは野生動物の肉がたっぷり入っている。
 料理はこれ一品だけだが、それだけで十分なボリュームがある。

「うめえうめえ」

「たんと召し上がれ……って、凄い勢いで食べてる……!」

「お代わりください」

「はい、どうぞ」

「お、なんだ。カトリナの味付けが気に入ったか? どんどん食え! こいつ、めちゃくちゃたっぷりシチューを作るんだが、お陰で三日はこれを食うことになるんだよ。だが、お前がいればすぐに片付きそうだな!」

「お父さんが大きい猪を取ってくるからでしょ? 新鮮なお肉を食べるには、シチューが一番なの。肉汁も脂も全部活かして作れるんだから!」

 うむ、カトリナのシチューは美味い。
 ちょっと獣臭いのを、なんかハーブみたいなのを豪快に散らしてごまかしているが、そこも美味い。
 ちなみに俺は、味さえついていれば何でも美味しく食えるタイプだ。

「うめえうめえ」

 二杯目を平らげ、三杯目を腹に収め、四杯目を胃に流し込み、五杯目からじっくり味わい、やっぱ大味だなこれは、と結論づけて、だがそこがいいと頷く。
 結局七杯食って終わりとした。

「ごちそーさん」

「ごちそ?」

「俺の国の、美味しかったですありがとうって意味」

「へえー! いっぱい食べてくれて、ありがとうショート!」

「どういたしまして」

「お前、おれよりも食うんだなあ。おれよりも小せえのによ」

「俺は燃費が悪くてな」

 若さと魔法とスキルの力だ。
 そして、俺はこの世界に来てから大切なことを習った。
 器を持って、立ち上がる。

「洗ってくる」

 自分で使った食器は自分で洗うという、この意識だ。

「えっ、洗ってくれるの!? じゃあ、外の汲みおきの水を使ってね」

「うーす」

 カトリナに教えてもらった場所には、食器洗い用の水が貯めてあり、ここでごしごし洗う。
 辺境には明かりが無いな。
 お陰で、周囲はすっかり真っ暗だ。

 星を見上げながら、物思いに(ふけ)る。
 つい数日前に魔王を倒し、今日王城に行き、直後に王国を出奔した。

 そして今、オーガの親子と食卓を囲み、たらふくシチューを食った。
 人生、何が起こるか分からんなあ。

「ショート!」

 戸口から、カトリナが顔を出した。

「お、なんだ?」

「お風呂沸かすけど、先に入る?」

「入る入る。風呂まで入れるのか……! すげえなあ」

「お陰で、朝は水汲みが大変だけどね。お水をたくさん使えたほうが健康にはいいもの」

「なるほど、道理だ」

 俺は納得した。
 ここでは、たくさんのことを学べそうだ。

「それじゃあショート! 薪をくべて湯を沸かすには、何をしたらいいと思う?」

 カトリナが、クイズを出してきた。
 これはつまり、食器洗い用の水があるということは。

「風呂用に汲んだ水があるんだな? そして、薪でガンガンに湯を沸かす」

「その通り!」

 風呂沸かしミッション開始だ。



「ここは俺に任せてくれ」

「おお、強気だな!」

 ブルストがにやりと笑う。

「ふはははは! この俺が、本来ならきつい肉体労働であろう風呂を沸かす作業を楽々終えてみせようじゃないか!」

「頑張って、ショート!」

「頑張る!」

 期待の声を背に受けて、俺は薪置場へ向かった。
 そこには、俺が割った薪が積み上げてある。

 隣にはブルストの薪があるが、俺のはなんとも不格好で不揃いだな!
 これは本来、燃え上がり方が変わってしまうだろう。
 しかし。

 魔法で燃やせばそんなことは大差なくなるのだ。
 風呂桶はでかい岩を削ったもので、これに湯を貯めて板を沈め、熱する。
 板の上にしゃがみ込むようにして入るわけだ。

 風呂は、専用の炉の上に乗っかった露天式。
 こりゃあ風情がある。

 水を入れ、板を沈め、薪をくべて……。

「行くぞ! 小規模火炎魔法、ハジメチョロチョロ(俺命名)!」

 薪が燃え始めた。
 やはり、最低限の炎の魔法でちょうどいいな。

 すぐに湯が温まってくる。
 熱しすぎないように、火加減をコントロールせねばならない。
 これは、勇者である俺の腕の見せ所……。

 いや、今の俺は勇者ではない。
 湯沸かし人ショートだ。

「じゃあ、お風呂お先しちゃうね。うわあ、あったかーい」

 この声は!!

「ああー……。きもちいい……。やっぱり、お風呂は好きだなあ……」

「ほうほう」

 美少女が湯船をちゃぷちゃぷやっている音がする。
 俺は情景を想像するのが得意なんだ。
 いいぞいいぞ、お約束の光景だこれは。

「ショート、お風呂は一発で上手く行ったね。お風呂沸かす才能があるのかな」

「ほう、意外な才能が俺に……!?」

「うん、絶対才能あるよ」

 カトリナが湯船の中で、調子のいいことをいう。
 だが、俺はすぐに調子に乗るぞ。

「そ、そうか……!」

 俺は鼻息を荒くして、魔法の操作に少しだけ力を込めてしまった。

「あ、あれ? ちょっとお湯が熱くなってきてない?」

「なにっ! ちょっと待て。小規模冷却魔法、ブルット(俺命名)!!」

「きゃあ、今度は冷たい!」

「なにっ!」

 俺はちょっと焦って立ち上がった。
 ちょうど、そうすると風呂場に顔が覗くことになる。

 そこで、思わず湯から上がったらしいカトリナと目が合ってしまった。

 ほう、さすがはオーガの娘。
 いい発育だ……!!

「みっ、見ちゃだめえー!!」

 次の瞬間、カトリナが思いっきりオーガのパワーで湯船を叩いた。
 跳ね上がる強烈な水しぶき。

「ウグワーッ!! 目が! 目があー!」

 目に飛沫が入り、のたうち回る俺なのだった。