フックとミー夫妻が仲間に加わった。
彼らは、迎えに出てきたブルストとクロロックを見て、明らかに腰が引けた様子だったが俺が説得した。
「確かに、開拓地に来たらでかくていかついオーガと、何を考えているか分からないように見えるカエルが出迎えてきたら驚く。だが俺が保証する。いい人たちだぞ……」
「ゆ……勇者ショートが言うなら確かだよな」
「人? を見た目で判断したらだめだね」
ということで、無事に二人を迎え入れる。
「いやあ、頭数が増えるとこなせる仕事も増えるからな。歓迎するぞ! ほう、お前の奥さんは妊娠してるのか。ちょうどいい。家の仕事も増えてきたんだ。カトリナ一人だと大変だから、二人で家周りを回してくれると助かるな」
ブルストがテキパキと、今後のことについて話をする。
地に足がついている男なので、こういうのは強い。
フックも納得したようだ。
「ミーが家にいて仕事をしてくれるなら俺も安心だ! こっちのカトリナさんだったら怖くないしな……! 俺のことならこき使ってくれていいぜ! 力仕事でも畑仕事でも、なんでもやってやる!」
「おお! 頼もしいな! 両方あるから好きな方やれるぞ!」
「ワタクシ、醸造関連も彼に手伝ってもらうのがいいかと思いますが」
「そうか、クロロックは肌の粘膜が酒に弱いからな」
「ええ。見学に行った醸造所で肌荒れを起こしました」
「クロロック本格的にアルコールダメになったのかあ」
「少量を飲むのならば問題ないんですが。面目ありません」
ケロロー、と喉を鳴らすクロロック。
これはしょんぼりしてるな。
俺はここでまとめに入った。
「よし、じゃあ担当だ。俺が畑作と開墾な。ブルストは開墾と建築、醸造。フックは畑作と開墾と醸造。クロロックは肥料と畑作と開墾」
「いいな! 開墾はみんなでやるからなあ。頭数が生きてくるぞ!」
「ワタクシもそれに賛成ですよ」
「分かった! 任せてくれ! いやあ……開拓してるって聞いたから、しばらく贅沢はできねえと思ってたけどよ。まさか酒を作ってるとはなあ」
「丘ヤシの酒だぞ。煮詰めて蜜を作るところからやってんだよ。将来的には蒸留酒も作りてえな……」
「いいなあ! 俺、今からよだれが出てきそうだよ」
フックは早くもブルストと打ち解けたようだ。
さすがは旅芸人、コミュ力が高いな。
一方、カトリナとミーは……。
俺はちょろっと見に行った。
「力仕事はまだいける? 私が大体やるけど、ミーさんが得意なこととかある?」
「あたしね、縫い物が得意。芸人の衣装、大体あたしが作ってたからさ。料理は西国風で良ければ!」
「あ、西国風の料理!? それは知らないなあ」
「えーとねえ、ハーブと油をめっちゃ使うの。油ある?」
「油かあー。少ないかもなあ」
そう言えば、うちの料理は煮物と汁物が中心で、炒めものや揚げ物はほとんど無かったな。
獣がとれた時、そいつの油を使って作るくらいだった。
「お二人さん……」
「きゃっ! ショート、いつの間に!」
肩口から声を掛けたら、カトリナが文字通り飛び上がった。
「油は俺が探してこよう。揚げ物が作れるくらいたっぷり油が手に入るぞ」
「ほんと!? でも油なんてどこに……」
「任せてくれカトリナ。もう勇者だって隠さなくて良くなったからな。俺はどのモンスターがどれだけ油たっぷりなのかをよく知っている。ちょっと取ってくるぜ」
「今から!?」
「夕方までには戻る。リミッターの外れた俺はちょっと違うぞ! はあっ! フワリ、そしてバビュン!!」
俺は一気に超加速した。
一瞬でハジメーノ王国を飛び出し、その南部にある砂漠の王国サバッカへと到着する。
上空から砂漠を見回した。
「おうおう、いるいる」
空の上からでも確認できる、大きな緑色の物が動き回っている。
そいつの周囲は、砂漠の色が黒くなり、湿っているように見えた。
一部では炎が上がっている。
砂漠の国の気温と直射日光で自然発火するのだ。
そう、あの黒いのは、油。
石油じゃない。
ちゃんとした食用油だ。
「おーい、サボテンガー!」
声を掛けると、そいつは俺に反応してうねうね動いた。
こいつは巨大サボテンのモンスター、サボテンガーである。
体内にたくさんの水と油を詰め込んでおり、砂漠に存在するあらゆるオアシスを支配すると言われている。
『あら、勇者じゃないー』
サボテンガーが親しげに手を上げてきた。
こいつはかつて魔王軍に与していたが、俺との激闘を経て友情を育んだのだ。
勇者ショート砂漠編は、それだけで一冊の本になるくらいの量なので割愛しておくぞ。
「油を分けて欲しいんだ」
『へえー。油なんか、人間の世界ならいくらでも手に入るんじゃないの?』
「それがこっちにも事情があってな。油の自前調達ができるようにしたい」
『だったら……ほいっ』
サボテンガーがむきっと力こぶを作ってみせる。
すると、こぶの一箇所がもりっと膨らみ、どんどん膨らみ……そのごく一部分がちょっぴりだけ、プツンと切れた。
『これ、アタシの子ども。あっちで育てなさい』
「今の住まい、高温多湿なんだが」
『あらー、それじゃあ枯れちゃうわねえ。適当にあんたの魔法で品種改良しといて』
「簡単に言うなあ」
『何よ、神々の力を譲り受けた全能の勇者ならやれるでしょ』
「今は全能っていうか全農だけどな」
『あらオヤジギャグ』
俺とサボテンガーで、わっはっは、おほほほほ、と笑った。
よし、じゃあこのサボテンガーの子どもを、湿ったところでも大丈夫なタイプに改良だ。
これで油を使った料理は解決、と。
いやいや、これから品種改良のために新しい魔法を作らないといけないんだから、全然解決してないんだけどな。
ということで。
うちの畑に、サボテンが生えることになった。
幹に穴を空けると、油が採れるのである。
「油だー!」
「これで西国風料理もできるね!」
女子たちがキャッキャと喜んでいる。
いい仕事をした。
「ショートさん、畑、畑!」
「すまねえショートさん! 畑仕事教えてくれえ!」
あっ、まだ仕事が終わってない!
辺境の開拓、幾らでもやる仕事はあるのだ。
彼らは、迎えに出てきたブルストとクロロックを見て、明らかに腰が引けた様子だったが俺が説得した。
「確かに、開拓地に来たらでかくていかついオーガと、何を考えているか分からないように見えるカエルが出迎えてきたら驚く。だが俺が保証する。いい人たちだぞ……」
「ゆ……勇者ショートが言うなら確かだよな」
「人? を見た目で判断したらだめだね」
ということで、無事に二人を迎え入れる。
「いやあ、頭数が増えるとこなせる仕事も増えるからな。歓迎するぞ! ほう、お前の奥さんは妊娠してるのか。ちょうどいい。家の仕事も増えてきたんだ。カトリナ一人だと大変だから、二人で家周りを回してくれると助かるな」
ブルストがテキパキと、今後のことについて話をする。
地に足がついている男なので、こういうのは強い。
フックも納得したようだ。
「ミーが家にいて仕事をしてくれるなら俺も安心だ! こっちのカトリナさんだったら怖くないしな……! 俺のことならこき使ってくれていいぜ! 力仕事でも畑仕事でも、なんでもやってやる!」
「おお! 頼もしいな! 両方あるから好きな方やれるぞ!」
「ワタクシ、醸造関連も彼に手伝ってもらうのがいいかと思いますが」
「そうか、クロロックは肌の粘膜が酒に弱いからな」
「ええ。見学に行った醸造所で肌荒れを起こしました」
「クロロック本格的にアルコールダメになったのかあ」
「少量を飲むのならば問題ないんですが。面目ありません」
ケロロー、と喉を鳴らすクロロック。
これはしょんぼりしてるな。
俺はここでまとめに入った。
「よし、じゃあ担当だ。俺が畑作と開墾な。ブルストは開墾と建築、醸造。フックは畑作と開墾と醸造。クロロックは肥料と畑作と開墾」
「いいな! 開墾はみんなでやるからなあ。頭数が生きてくるぞ!」
「ワタクシもそれに賛成ですよ」
「分かった! 任せてくれ! いやあ……開拓してるって聞いたから、しばらく贅沢はできねえと思ってたけどよ。まさか酒を作ってるとはなあ」
「丘ヤシの酒だぞ。煮詰めて蜜を作るところからやってんだよ。将来的には蒸留酒も作りてえな……」
「いいなあ! 俺、今からよだれが出てきそうだよ」
フックは早くもブルストと打ち解けたようだ。
さすがは旅芸人、コミュ力が高いな。
一方、カトリナとミーは……。
俺はちょろっと見に行った。
「力仕事はまだいける? 私が大体やるけど、ミーさんが得意なこととかある?」
「あたしね、縫い物が得意。芸人の衣装、大体あたしが作ってたからさ。料理は西国風で良ければ!」
「あ、西国風の料理!? それは知らないなあ」
「えーとねえ、ハーブと油をめっちゃ使うの。油ある?」
「油かあー。少ないかもなあ」
そう言えば、うちの料理は煮物と汁物が中心で、炒めものや揚げ物はほとんど無かったな。
獣がとれた時、そいつの油を使って作るくらいだった。
「お二人さん……」
「きゃっ! ショート、いつの間に!」
肩口から声を掛けたら、カトリナが文字通り飛び上がった。
「油は俺が探してこよう。揚げ物が作れるくらいたっぷり油が手に入るぞ」
「ほんと!? でも油なんてどこに……」
「任せてくれカトリナ。もう勇者だって隠さなくて良くなったからな。俺はどのモンスターがどれだけ油たっぷりなのかをよく知っている。ちょっと取ってくるぜ」
「今から!?」
「夕方までには戻る。リミッターの外れた俺はちょっと違うぞ! はあっ! フワリ、そしてバビュン!!」
俺は一気に超加速した。
一瞬でハジメーノ王国を飛び出し、その南部にある砂漠の王国サバッカへと到着する。
上空から砂漠を見回した。
「おうおう、いるいる」
空の上からでも確認できる、大きな緑色の物が動き回っている。
そいつの周囲は、砂漠の色が黒くなり、湿っているように見えた。
一部では炎が上がっている。
砂漠の国の気温と直射日光で自然発火するのだ。
そう、あの黒いのは、油。
石油じゃない。
ちゃんとした食用油だ。
「おーい、サボテンガー!」
声を掛けると、そいつは俺に反応してうねうね動いた。
こいつは巨大サボテンのモンスター、サボテンガーである。
体内にたくさんの水と油を詰め込んでおり、砂漠に存在するあらゆるオアシスを支配すると言われている。
『あら、勇者じゃないー』
サボテンガーが親しげに手を上げてきた。
こいつはかつて魔王軍に与していたが、俺との激闘を経て友情を育んだのだ。
勇者ショート砂漠編は、それだけで一冊の本になるくらいの量なので割愛しておくぞ。
「油を分けて欲しいんだ」
『へえー。油なんか、人間の世界ならいくらでも手に入るんじゃないの?』
「それがこっちにも事情があってな。油の自前調達ができるようにしたい」
『だったら……ほいっ』
サボテンガーがむきっと力こぶを作ってみせる。
すると、こぶの一箇所がもりっと膨らみ、どんどん膨らみ……そのごく一部分がちょっぴりだけ、プツンと切れた。
『これ、アタシの子ども。あっちで育てなさい』
「今の住まい、高温多湿なんだが」
『あらー、それじゃあ枯れちゃうわねえ。適当にあんたの魔法で品種改良しといて』
「簡単に言うなあ」
『何よ、神々の力を譲り受けた全能の勇者ならやれるでしょ』
「今は全能っていうか全農だけどな」
『あらオヤジギャグ』
俺とサボテンガーで、わっはっは、おほほほほ、と笑った。
よし、じゃあこのサボテンガーの子どもを、湿ったところでも大丈夫なタイプに改良だ。
これで油を使った料理は解決、と。
いやいや、これから品種改良のために新しい魔法を作らないといけないんだから、全然解決してないんだけどな。
ということで。
うちの畑に、サボテンが生えることになった。
幹に穴を空けると、油が採れるのである。
「油だー!」
「これで西国風料理もできるね!」
女子たちがキャッキャと喜んでいる。
いい仕事をした。
「ショートさん、畑、畑!」
「すまねえショートさん! 畑仕事教えてくれえ!」
あっ、まだ仕事が終わってない!
辺境の開拓、幾らでもやる仕事はあるのだ。