村人を募集するため、カトリナと二人で丁字路村に向かった。
 彼女をお姫様抱っこし、空を飛ぶのだ。

 時速百キロなんか出さないぞ。
 そんな速度を出したらカトリナが可哀想じゃないか。
 だが村人とかは時速百キロで運ぶ。

 ということで、そこそこのんびりな速度で一時間。
 時速二十キロ弱かなあ。
 丁字路村が見えてきた。

 俺の姿が見えると、村人がわあわあ騒ぎ出す。
 次々に家の中から村人が現れ、小さい子は家の中に隠れ……。

 おい。
 俺は災害か何かか。

 カトリナがこれを見てくすくす笑う。

「ショートの薬が効きすぎてるかもしれないね」

「うむ、まさかこれほど畏れられるようになるとは思ってなかった」

 すたっと降り立つと、村の代表者が駆け寄ってきてひざまずいた。

「ははーっ」

「そういうのやめなさい」

「み、皆のもの! 立っていいと勇者様が仰せじゃ」

「おお……ハジメーノ王国のトラッピア殿下の威光すらはねのける、不可侵の勇者様が立っていいと仰られた」

「立つべ立つべ」

「俺への恐れが何かパワーアップしている気がするが?」

「ショートをよく知らないと、勇者様は怖いもんね」

 その後、思わず勇者様と口にしてた件で、また村が大騒ぎになるのだが。
 今後は勇者呼ばわり解禁ということで落ち着いた。

「村長、これは観光資源になるのでは」

「だな。勇者様の立像を作るべ」

 たくましいなこいつら!

「それで勇者様、今日は何をされにいらっしゃいあそばされましたのでございまするか」

「ああ。実は勇者村の新しい村人を募集にな。どうだ、誰か来ないか?」

 村人たちはみんな引きつった笑顔を浮かべて、ちょっと後ろに下がった。
 いかん、恐れられ過ぎた。

「では、募集しているという話を旅人に流してくれ。開拓していくために人が必要なんだ」

「はい。今も何組か旅人が来ているので、声を掛けてみますぞ」

 ということで、広場の真ん中に豪勢な椅子を持ってこられて、報告を待つ俺とカトリナなのである。
 なんだこれは。
 お茶とお菓子まで出た。

「あまーい」

 カトリナが満面の笑顔で、お菓子を頬張っている。
 家の周りには甘いものなんて、丘ヤシしかないからなあ。

 しばらくすると、村長が戻ってきた。
 後ろに一組の男女を連れている。
 格好からして、この辺りの人間じゃないな?

「旅芸人の夫婦がおりまして。妻が身籠ったのでどこかに落ち着こうとしていたところらしいです」

「ほうほう」

 男の方は、日に焼けた快活な印象。
 女の方も日焼けしていて、活発そうだ。

「王都まで行こうとはしてたんですがね。でも、俺らの芸はいまいち、ハジメーノ王国じゃ受けが悪くて……」

「そうそう。それに、あたしらはコンビで芸を見せてたので、あたしが動けなくなると稼ぐ手段が不安で……。そこで、移住者を探してるって話を聞いたんだよ」

「そうかそうか。じゃあちょっと待ってね。善悪判断魔法ハラゲイブレイカー(俺命名)!」

 俺の手から、モワアッと曖昧な感じの光が漏れる。

「う、うわーっ」

 夫婦は光に包まれて悲鳴をあげた。
 この魔法、その人間が抱いている、俺に対するよこしまな心を感知する魔法である。
 人間誰しもよこしまな心はあるが、これが危険レベルを超えると敵だと思って間違いない。

 この夫婦は……。
 おっ、よこしまな心がほとんど無いじゃないか。
 正直な人たちだな。

「どう、ショート?」

「合格だな。よし、二人とも勇者村にようこそ! 連れて行くよ!」

「ありがとう!」

「ありがとうー! で、さっきの光は? 勇者村って?」

 その説明は、おいおいやって行くのだ。
 丁字路村で荷馬車を買い上げ、馬は数に余裕がないから勘弁してくれと言われたので、自前で用意することにする。

 念動魔法で馬が牽引するような力を加え、荷馬車を引っ張っていくのである。

「馬もいないのに荷馬車が走り出した……!!」

「あれも勇者様の魔法か!?」

「恐ろしい恐ろしい」

「だけど勇者様が勇者の名義を使うのを許してくれるとはなあ」

「これから俺たちは勇者村の手前村だ! 稼ぐぞ!」

「ここは勇者様降臨の地! 碑を立てるべ!」

「これは勇者様が三歳のころのしゃれこうべ……」

 商魂たくましい連中である。

「ほああああ……、に、荷馬車が勝手に……」

「ああああ……な、なんか凄い人なんじゃ、この人……」

 夫婦が怯えている。
 混乱する彼らに、カトリナが俺のことを説明してくれた。

「この人は、勇者ショートだよ。勇者本人だよ。事情があって辺境で開拓をすることになったの。今はスローライフ人だったよね? それで、私のー、そのー、旦那様……! きゃっ」

 可愛いッ。

 俺がニヤニヤしてると、夫婦は大変合点がいったようであった。
 お互い夫婦みたいなものなので、シンパシーを感じたのかも知れない。

「なるほど、二人は夫婦だったのか。種族を越えた愛っていいよなあ」

「あたしと旦那はね、同じ村の生まれだったんだけど、そこが魔王軍にやられてねえ。ずっと、綿花を育ててたのに、残りはこの種だけになっちまった。ほんとはあたしら、どこかに根を張って綿花を育てていこうと思ってるんだけど、気付いたら旅芸人として暮らすことになっちゃってさあ」

「なるほど、苦労したんだな。ところで、そろそろ君たちのお名前を」

「あ、悪い、あまりにいろいろな事が立て続けに起こるんで忘れてた! 俺はフック」

「あたしはミーだよ」

「ミーはまだ腹は目立たないけど、きつい仕事はさせたくねえ。俺が気合い入れて働くからよろしくな!」

「よし、よろしく。あと、家ができるまでしばらくは、俺らの家で暮らしてもらうが……部屋数がなあ」

「ショート、あのね、ショートの部屋を使わせてあげればいいと思う。それで、ショートは私の部屋で……」

「なるほどっ!!」

 俺は目を見開いた。
 そうか、堂々とカトリナとイチャイチャしていいのである。
 部屋数的にも、フックとミー夫婦を泊めるためには仕方ないなあ!

 ということで、俺たちにとっても良いことがたくさんある、移民の受け入れ第一弾。
 村の人数も増えて、開拓も本格化だ。

 綿花を持っているそうだから、それの栽培もいけそうか?
 この辺りはクロロックに相談せねばな。