果物の樹をもらってきた。
本当なら、種から育てるか苗木をもらうかするんだが、今回は丁字路村の厚意で樹をまるごともらえたのだ。
丘ヤシを植えると、しっかりと根づいたようだ。
「ねえショート。すぐに果物食べられる? すぐに食べられる?」
「おう。もう実が成ってるのをもらってきたからな。一個もいであげよう」
俺が飛び上がって椰子の実を掴む。
そして、全身にひねりを加えてもぎ取った。
「カトリナ!」
「やったあ!」
果実を受け取って、歓声をあげるカトリナ。
「みんなで食べられるように切り分けてくるね!」
彼女は弾んだ声でそう告げると、家までいそいそと走っていった。
「やっぱ、女は甘いもんが好きだよなあ」
しみじみと呟くブルスト。
「ブルストはそうでもないのか?」
「俺はな、酒が好きなんだよ。つまみはしょっぱいものがいい。だけどなあ、ここじゃあ、酒がねえし、水が貴重だから喉が渇くしょっぱいものはなあ」
「確かに。いちいち水汲みしてるもんな。水路を引けたら楽なんだが。っていうか……米を将来的に作ろうと思ったら、絶対に水路が必要だよな。なあクロロック」
カエルの人は、ぼーっとしていた。
「おいクロロック?」
「ハッ。失礼しました。ワタクシ、陽の光を浴びて呆けておりました」
「太陽の光でビタミンDを作ってるってやつ?」
「びたみん?」
「なんか、トカゲとか亀とか、日光浴で栄養を得たりしてるじゃないか」
「ああ、確かに。ワタクシもそうですが、ただ陽の光に当たるとぼーっとするのです。お気になさらず。え、水路の話でしたか」
「そうそう。水路引こうぜクロロック」
「いいですね。今はまださほど必要ありませんが、将来的に米を育てるならば必須と言えますね。ですが今は、カトリナさんが切り分けてくる果実ののどごしを楽しみにしましょう」
「まーた出たよ、クロロックののどごしだ」
ブルストがげらげら笑った。
「そう言えば、丘ヤシは甘いから、あれで酒を造れるんじゃないか?」
「なん……だと……?」
ブルストが目を見開いた。
「そういや、ショートのお陰で村との関係も良くなったから、いつでも酒を買えるようになっちゃいるんだよな。そうだった……。だが、自分で作るってのもいいなあ」
「ブルストにも目標ができたか」
「おう! 前までは生きるので精一杯だったからな。割と何もかもお前のお陰だよショート。マジであれだ。カトリナをもらってこっちでずっと暮らせよ」
「なにぃ……。父親公認だとぉ……!?」
俺は戦慄した。
トントン拍子ではないか。
こういう状況だと、俺とヒロインの間に立ちふさがるのは大抵父親ではないのか。
「俺としても、ショートが息子になってくれるとな……」
ハッ、こ、この状況……。
まさか俺は既にブルストを落としていた……!?
いや、まさかな。
おっさんを攻略していたとかそんなアホな話はないだろう。
「酒造りはクロロックできるのか?」
「ワタクシ、アルコールで肌の粘膜がやられますので」
「クロロックにもできないことが」
「実際、ワタクシは肥料と畑作専門なので稲作も専門外ではあります」
「実は専門分野が限られていたのか!」
「学者ですので」
学者とはそういうものらしい。
男三人で角を突き合わせ、酒を作る作らないと話していたら、カトリナが戻ってきた。
「おまたせー! 案外殻が硬くてねー。でも、斧でガンガンやったら割れたよ!」
「おうおう。カトリナは俺の次に斧の使い方が上手いからなあ」
斧を使える系女子、カトリナ。
大きな素焼きの皿の上には、切り分けられた丘ヤシの身が並んでいた。
やっぱり、何度見ても白いドラゴンフルーツみたいな見た目だ。
食感もそうなんだよなあ。
「じゃあ、いただくね? ……んーっ! あまーい! みずみずしい!」
カトリナが目をつぶってプルプルと震える。
久々の甘味に感動しているようだ。
普段俺たちが食べている芋は、甘さが少ないもんな。
俺も丘ヤシの実を口に放り込む。
うん。
控えめな甘みと言うか、上品な甘みというか、
「酒になるかな……」
「糖度はそれなりにありますからいけるでしょう」
「よし、酒を作るか……」
向こうではブルストとクロロックがひそひそ話をしている。
クロロック、体質的に粘膜が大事な生き物だから、酒は飲めないだろうに酒造りには興味がありそうだな。
「それでショート、樹は何本植えるの?」
指についた果汁をぺろりと舐めながら、カトリナ。
お行儀が悪いが、大変エッチな仕草である。
「うーん」
「ショート?」
「おっと、すまん。見とれていた……。ええと、あと三本ほどかな。俺たちの頭数だと、そこまでたくさんの植物の世話はできないだろ。そもそも、俺たちはスローライフ初心者揃いなんだ」
「なるほど、確かにだねえ……。でも、それじゃあ、あんまり果物は食べられないねえ」
「問題ない。丘ヤシは肥料をやっとけば、暖かい地方だと一年中実をつけるんだと。つまりいつでも収穫できる」
「ほんと!?」
「本当か!!」
「ワタクシの肥料が生きますね」
三者三様の反応を見せたな。
「ピョピョピョー」
「おっ、果物の香りに誘われてヒヨコ軍団がやって来たぞ」
緑色のヒヨコが、トコトコとこっちまで走ってくる。
またトリマルの念動魔法で外鍵を開けたな?
もう鍵の意味がないな。
こうして、果樹が増えた勇者村。
新しい仕事も増えたが、そのぶん、カトリナとブルストのモチベーションも上がったのだった。
本当なら、種から育てるか苗木をもらうかするんだが、今回は丁字路村の厚意で樹をまるごともらえたのだ。
丘ヤシを植えると、しっかりと根づいたようだ。
「ねえショート。すぐに果物食べられる? すぐに食べられる?」
「おう。もう実が成ってるのをもらってきたからな。一個もいであげよう」
俺が飛び上がって椰子の実を掴む。
そして、全身にひねりを加えてもぎ取った。
「カトリナ!」
「やったあ!」
果実を受け取って、歓声をあげるカトリナ。
「みんなで食べられるように切り分けてくるね!」
彼女は弾んだ声でそう告げると、家までいそいそと走っていった。
「やっぱ、女は甘いもんが好きだよなあ」
しみじみと呟くブルスト。
「ブルストはそうでもないのか?」
「俺はな、酒が好きなんだよ。つまみはしょっぱいものがいい。だけどなあ、ここじゃあ、酒がねえし、水が貴重だから喉が渇くしょっぱいものはなあ」
「確かに。いちいち水汲みしてるもんな。水路を引けたら楽なんだが。っていうか……米を将来的に作ろうと思ったら、絶対に水路が必要だよな。なあクロロック」
カエルの人は、ぼーっとしていた。
「おいクロロック?」
「ハッ。失礼しました。ワタクシ、陽の光を浴びて呆けておりました」
「太陽の光でビタミンDを作ってるってやつ?」
「びたみん?」
「なんか、トカゲとか亀とか、日光浴で栄養を得たりしてるじゃないか」
「ああ、確かに。ワタクシもそうですが、ただ陽の光に当たるとぼーっとするのです。お気になさらず。え、水路の話でしたか」
「そうそう。水路引こうぜクロロック」
「いいですね。今はまださほど必要ありませんが、将来的に米を育てるならば必須と言えますね。ですが今は、カトリナさんが切り分けてくる果実ののどごしを楽しみにしましょう」
「まーた出たよ、クロロックののどごしだ」
ブルストがげらげら笑った。
「そう言えば、丘ヤシは甘いから、あれで酒を造れるんじゃないか?」
「なん……だと……?」
ブルストが目を見開いた。
「そういや、ショートのお陰で村との関係も良くなったから、いつでも酒を買えるようになっちゃいるんだよな。そうだった……。だが、自分で作るってのもいいなあ」
「ブルストにも目標ができたか」
「おう! 前までは生きるので精一杯だったからな。割と何もかもお前のお陰だよショート。マジであれだ。カトリナをもらってこっちでずっと暮らせよ」
「なにぃ……。父親公認だとぉ……!?」
俺は戦慄した。
トントン拍子ではないか。
こういう状況だと、俺とヒロインの間に立ちふさがるのは大抵父親ではないのか。
「俺としても、ショートが息子になってくれるとな……」
ハッ、こ、この状況……。
まさか俺は既にブルストを落としていた……!?
いや、まさかな。
おっさんを攻略していたとかそんなアホな話はないだろう。
「酒造りはクロロックできるのか?」
「ワタクシ、アルコールで肌の粘膜がやられますので」
「クロロックにもできないことが」
「実際、ワタクシは肥料と畑作専門なので稲作も専門外ではあります」
「実は専門分野が限られていたのか!」
「学者ですので」
学者とはそういうものらしい。
男三人で角を突き合わせ、酒を作る作らないと話していたら、カトリナが戻ってきた。
「おまたせー! 案外殻が硬くてねー。でも、斧でガンガンやったら割れたよ!」
「おうおう。カトリナは俺の次に斧の使い方が上手いからなあ」
斧を使える系女子、カトリナ。
大きな素焼きの皿の上には、切り分けられた丘ヤシの身が並んでいた。
やっぱり、何度見ても白いドラゴンフルーツみたいな見た目だ。
食感もそうなんだよなあ。
「じゃあ、いただくね? ……んーっ! あまーい! みずみずしい!」
カトリナが目をつぶってプルプルと震える。
久々の甘味に感動しているようだ。
普段俺たちが食べている芋は、甘さが少ないもんな。
俺も丘ヤシの実を口に放り込む。
うん。
控えめな甘みと言うか、上品な甘みというか、
「酒になるかな……」
「糖度はそれなりにありますからいけるでしょう」
「よし、酒を作るか……」
向こうではブルストとクロロックがひそひそ話をしている。
クロロック、体質的に粘膜が大事な生き物だから、酒は飲めないだろうに酒造りには興味がありそうだな。
「それでショート、樹は何本植えるの?」
指についた果汁をぺろりと舐めながら、カトリナ。
お行儀が悪いが、大変エッチな仕草である。
「うーん」
「ショート?」
「おっと、すまん。見とれていた……。ええと、あと三本ほどかな。俺たちの頭数だと、そこまでたくさんの植物の世話はできないだろ。そもそも、俺たちはスローライフ初心者揃いなんだ」
「なるほど、確かにだねえ……。でも、それじゃあ、あんまり果物は食べられないねえ」
「問題ない。丘ヤシは肥料をやっとけば、暖かい地方だと一年中実をつけるんだと。つまりいつでも収穫できる」
「ほんと!?」
「本当か!!」
「ワタクシの肥料が生きますね」
三者三様の反応を見せたな。
「ピョピョピョー」
「おっ、果物の香りに誘われてヒヨコ軍団がやって来たぞ」
緑色のヒヨコが、トコトコとこっちまで走ってくる。
またトリマルの念動魔法で外鍵を開けたな?
もう鍵の意味がないな。
こうして、果樹が増えた勇者村。
新しい仕事も増えたが、そのぶん、カトリナとブルストのモチベーションも上がったのだった。