日々は何事もなく過ぎる。
芋のツルはもりもりと伸び、俺の魔法を使って発酵させた肥料はまあまあ使えそうになり、これを用いたらさらに芋のツルがもりもりと伸びた。
トリマルたちヒヨコ軍団は一回り大きくなった。
今日もむしゃむしゃと地面から出てくる虫を食べている。
「早く大きくなるんだぞ……。いや待て、大きくなったらヒヨコじゃなくなっちゃうのか。それはそれで残念……いやいや、我が子の成長を望まないなどお母さん失格だろう俺よ!!」
俺が懊悩して呻いていると、カトリナが昼のお弁当を持ってきた。
「はい、お芋」
「おお、ありがとう」
一口サイズにカットされたお弁当が器に乗っている。
今回の器は再利用するものらしく、割ってはいけないのだ。
最近開拓の作業が忙しくなってきて、ブルストも焼き物があまりできていないからな。
トリマル、トリヨ、トリナ、トリミ、そしてクロロックを仲間に加え、辺境も随分賑やかになってきた。
「そろそろさ、この土地の名前を決めてもいいのではないか」
「どうしたの、急に」
俺の隣に座り込んで、芋をもぐもぐやっていたカトリナ。
目を丸くしてこっちを見る。
「人が増えてくると、いつまでもここを、“ここ”呼びだとおかしいし不便だろ? 名前があったら、ああここかあ、ってすぐ分かるし。もしかしたら、このまま人が増えて村になるかも知れないからな」
「ええー! 村になるほど人が来るの? それはすごいなあ! そうしたらショートが村長さんだねえ」
「俺が!? 俺が村長!? いやいや、やはりここは我が師ブルストにしておくべきだろう……」
「おっ、なんだなんだ。俺の噂してるのか?」
噂をしたらブルストが来た。
木を切り倒してきたらしく、大変汗をかいている。
「よしブルスト、冷やしてやろう。突風魔法エンドオブ・キングダム・サイクロンのミニマム版」
俺の手から、ほどよいそよ風が出た。
「おほー。涼しいなあ! ショートの新しい魔法が出たなあ。大仰な名前の割には可愛いな」
「はっはっは」
本当ならば、大空を舞台にした戦闘で魔王軍の空軍本隊を相手取り、空を埋め尽くすほどの飛翔型魔神の群れを一掃すべく開発された空戦用決戦型魔法の一角なのだが。
きちんとコントロールすれば扇風機代わりになるのだ。
ちなみに地震魔法ユラユラも、プラネットエンド・アースシェイカーからいい感じで揺れる要素だけを抽出した魔法である。
俺が使う最強の四大攻撃魔法だが、もう使う機会はほとんどなかろうなあ。
デッドエンド・インフェルノはよく使ってる気がするが。
「あのね、お父さん。ショートが、ここを村にしようって言ってたの」
「村!? 確かにクロロックが増えたし、ヒヨコも増えたが、そりゃまた気が早いなあ」
カトリナが俺の言葉を意訳したぞ。
概ね間違いない。
「やはり、開拓と言えば村を作っていくことでは?」
「そうかもな。魔王との戦いが終わっても、世の中は荒れ放題だしなあ。仕事がなくなった奴や、故郷がなくなったのもいるだろうな。そういう奴らを受け入れられる場所ができるなら、俺はいいと思うぜ」
ブルスト、お前、聖人か!?
前々から思っていたが、このオーガ、人間ができすぎている。
伊達におっさんではないな。
「ショートがお父さんを尊敬の目で見てる!」
「へへへ、よせやい」
照れた。
あと、カトリナは的確に俺の思考とか感情を読み取れるのはなんなんだ。
じっと彼女を見てたら、目が合った。
そのままじーっと目を合わせていると、カトリナが頬を赤くしてぷい、とそっぽを向いた。
「お、おうちの仕事しなくちゃ! ほらほら、二人とも食べ終わったお皿ちょうだい。洗ってまた使わなくちゃいけないんだから!」
俺とブルストは、芋をもりもり食べ、カトリナが持ってきた茶を飲み、昼食を終えた。
このお茶は、村でもらってきたやつな。
将来的にはここでも茶を作れるようになりたいな。
「クロロックの飯は?」
「おう、あいつな」
ブルストが答えた。
どうやら午前中のクロロックは、ブルストの手伝いに行っていたようだ。
「昼飯を調達するって釣りに行ったぜ。魚を丸呑みできるからあいつは楽だよなあ」
「カエルだからなあ」
そして噂をすればそのカエル氏も昼食を終え、トコトコやってくる。
「やあやあショートさん。今日もいい陽気です。この陽気と湿気、実に素晴らしいところです」
「ようクロロック。今日の昼食は?」
「カワノボリダイダイと未だ名付けられていないカワゲラをいくらか。実に自然の恵みが豊かな場所です」
うんうん、と満足そうなクロロック。
要約すると、生魚と昆虫を食ったと言っている。
物言いは俺たちの中で一番の文明人なんだが、食生活は俺たちの中で一番ワイルドだよな。
「そうだ、クロロック。ショートがな、ここを村にしようと言ってるんだ」
「ほう」
クロロックの瞳孔が丸く開かれた。
頬が膨らんで、クロクローと音がする。
「それはいいことです。開拓をしていくには人がいりますし、開拓した土地を管理するにも人が必要ですからね。できることも増えていきますよ」
「ふむ、二人の意見を聞くと、やっぱ村にした方がいいみたいだな。村の名前だが、俺に腹案がある」
「開拓した村だからカイタークと言うんじゃねえだろうな」
ブルストの言葉に、俺はハッとした。
「ブルスト、あんたいつの間に俺の心を読めるようになったんだ……!?」
「聞いたかクロロック。ショートはネーミングセンスだけは致命的に無いんだ……! こいつが村長でいいと俺は思ってるんだが、村の名前だけは任せたらダメだ」
「なるほど、確かにカイタークはそのまま過ぎますね」
クロロックは目を細めた。
そして、水かきのついた手から、吸盤で先が丸くなった指を一本立てる。
「では、魔王が倒され、世界に平和をもたらした勇者にちなんで、勇者村というのはいかがです?」
「お、いいな、分かりやすくて」
ブルストが賛成した。
「クロロック、そりゃあちょっとあからさまでは……?」
「これくらい分かりやすい方がむしろ分からないものなんですよ、ショートさん」
カエル氏は澄まし顔で答える。
食えない男だ。
一方のプルストだけ、状況がよくわからないようで、きょとんとしているのだった。
芋のツルはもりもりと伸び、俺の魔法を使って発酵させた肥料はまあまあ使えそうになり、これを用いたらさらに芋のツルがもりもりと伸びた。
トリマルたちヒヨコ軍団は一回り大きくなった。
今日もむしゃむしゃと地面から出てくる虫を食べている。
「早く大きくなるんだぞ……。いや待て、大きくなったらヒヨコじゃなくなっちゃうのか。それはそれで残念……いやいや、我が子の成長を望まないなどお母さん失格だろう俺よ!!」
俺が懊悩して呻いていると、カトリナが昼のお弁当を持ってきた。
「はい、お芋」
「おお、ありがとう」
一口サイズにカットされたお弁当が器に乗っている。
今回の器は再利用するものらしく、割ってはいけないのだ。
最近開拓の作業が忙しくなってきて、ブルストも焼き物があまりできていないからな。
トリマル、トリヨ、トリナ、トリミ、そしてクロロックを仲間に加え、辺境も随分賑やかになってきた。
「そろそろさ、この土地の名前を決めてもいいのではないか」
「どうしたの、急に」
俺の隣に座り込んで、芋をもぐもぐやっていたカトリナ。
目を丸くしてこっちを見る。
「人が増えてくると、いつまでもここを、“ここ”呼びだとおかしいし不便だろ? 名前があったら、ああここかあ、ってすぐ分かるし。もしかしたら、このまま人が増えて村になるかも知れないからな」
「ええー! 村になるほど人が来るの? それはすごいなあ! そうしたらショートが村長さんだねえ」
「俺が!? 俺が村長!? いやいや、やはりここは我が師ブルストにしておくべきだろう……」
「おっ、なんだなんだ。俺の噂してるのか?」
噂をしたらブルストが来た。
木を切り倒してきたらしく、大変汗をかいている。
「よしブルスト、冷やしてやろう。突風魔法エンドオブ・キングダム・サイクロンのミニマム版」
俺の手から、ほどよいそよ風が出た。
「おほー。涼しいなあ! ショートの新しい魔法が出たなあ。大仰な名前の割には可愛いな」
「はっはっは」
本当ならば、大空を舞台にした戦闘で魔王軍の空軍本隊を相手取り、空を埋め尽くすほどの飛翔型魔神の群れを一掃すべく開発された空戦用決戦型魔法の一角なのだが。
きちんとコントロールすれば扇風機代わりになるのだ。
ちなみに地震魔法ユラユラも、プラネットエンド・アースシェイカーからいい感じで揺れる要素だけを抽出した魔法である。
俺が使う最強の四大攻撃魔法だが、もう使う機会はほとんどなかろうなあ。
デッドエンド・インフェルノはよく使ってる気がするが。
「あのね、お父さん。ショートが、ここを村にしようって言ってたの」
「村!? 確かにクロロックが増えたし、ヒヨコも増えたが、そりゃまた気が早いなあ」
カトリナが俺の言葉を意訳したぞ。
概ね間違いない。
「やはり、開拓と言えば村を作っていくことでは?」
「そうかもな。魔王との戦いが終わっても、世の中は荒れ放題だしなあ。仕事がなくなった奴や、故郷がなくなったのもいるだろうな。そういう奴らを受け入れられる場所ができるなら、俺はいいと思うぜ」
ブルスト、お前、聖人か!?
前々から思っていたが、このオーガ、人間ができすぎている。
伊達におっさんではないな。
「ショートがお父さんを尊敬の目で見てる!」
「へへへ、よせやい」
照れた。
あと、カトリナは的確に俺の思考とか感情を読み取れるのはなんなんだ。
じっと彼女を見てたら、目が合った。
そのままじーっと目を合わせていると、カトリナが頬を赤くしてぷい、とそっぽを向いた。
「お、おうちの仕事しなくちゃ! ほらほら、二人とも食べ終わったお皿ちょうだい。洗ってまた使わなくちゃいけないんだから!」
俺とブルストは、芋をもりもり食べ、カトリナが持ってきた茶を飲み、昼食を終えた。
このお茶は、村でもらってきたやつな。
将来的にはここでも茶を作れるようになりたいな。
「クロロックの飯は?」
「おう、あいつな」
ブルストが答えた。
どうやら午前中のクロロックは、ブルストの手伝いに行っていたようだ。
「昼飯を調達するって釣りに行ったぜ。魚を丸呑みできるからあいつは楽だよなあ」
「カエルだからなあ」
そして噂をすればそのカエル氏も昼食を終え、トコトコやってくる。
「やあやあショートさん。今日もいい陽気です。この陽気と湿気、実に素晴らしいところです」
「ようクロロック。今日の昼食は?」
「カワノボリダイダイと未だ名付けられていないカワゲラをいくらか。実に自然の恵みが豊かな場所です」
うんうん、と満足そうなクロロック。
要約すると、生魚と昆虫を食ったと言っている。
物言いは俺たちの中で一番の文明人なんだが、食生活は俺たちの中で一番ワイルドだよな。
「そうだ、クロロック。ショートがな、ここを村にしようと言ってるんだ」
「ほう」
クロロックの瞳孔が丸く開かれた。
頬が膨らんで、クロクローと音がする。
「それはいいことです。開拓をしていくには人がいりますし、開拓した土地を管理するにも人が必要ですからね。できることも増えていきますよ」
「ふむ、二人の意見を聞くと、やっぱ村にした方がいいみたいだな。村の名前だが、俺に腹案がある」
「開拓した村だからカイタークと言うんじゃねえだろうな」
ブルストの言葉に、俺はハッとした。
「ブルスト、あんたいつの間に俺の心を読めるようになったんだ……!?」
「聞いたかクロロック。ショートはネーミングセンスだけは致命的に無いんだ……! こいつが村長でいいと俺は思ってるんだが、村の名前だけは任せたらダメだ」
「なるほど、確かにカイタークはそのまま過ぎますね」
クロロックは目を細めた。
そして、水かきのついた手から、吸盤で先が丸くなった指を一本立てる。
「では、魔王が倒され、世界に平和をもたらした勇者にちなんで、勇者村というのはいかがです?」
「お、いいな、分かりやすくて」
ブルストが賛成した。
「クロロック、そりゃあちょっとあからさまでは……?」
「これくらい分かりやすい方がむしろ分からないものなんですよ、ショートさん」
カエル氏は澄まし顔で答える。
食えない男だ。
一方のプルストだけ、状況がよくわからないようで、きょとんとしているのだった。