クロロックの家を作ろうという話になった。
「川の近くがいいですね。ワタクシ、陸棲種のカエルですが水分は多いほうがいい」
「じゃあ毎朝水汲みに行くし、その時にクロロックを迎えに行く感じでいいか」
「将来的には川の水を引いて、用水路なり水田なりを作りますからね。そうなればワタクシも家ごとこちらに来るわけで」
そういう話をしていたら、ブルストが深く頷いた。
「ちょうどいい! ショートのお陰で材木も手に入りやすくなったんだ。森の中じゃ、建築に使うための材木は乾かしづらくてな。年単位でかかっちまう。だが、村なら専用の乾燥設備があるからな。材木を買いに行くぞ」
ということで。
全員総出で丁字路村に向かうことになったのである。
今回は、クロロックが加わって四人だ。
「お弁当作ってきたよ。お芋と、シチューを固めたやつ」
「固めたシチューはどうやって食べるので?」
俺が聞くと、カトリナが実践してくれた。
「こうやってねえ、バターみたいにお芋に塗るの。削って載せてもいいよー」
「おほー、こりゃあ濃厚だなあ」
「ショート! 今食べちゃだめ!」
「ははは、ごめんごめん。クロロックも弁当食べるだろ?」
「いただきましょう」
そこで、カトリナが疑問を感じたらしい。
今まで、俺たちとクロロックは一緒に食事をしたことが無いのだ。
この爬虫人は、せっかくの辺境で、エキサイティングな昆虫食を楽しみたいと言って食事時になると森の中に消えていっていた。
「ねえ、クロロックさんってカエルみたいな人なんでしょ?」
「ええ、概ね間違っていません」
「じゃあ、食べ物は丸呑みじゃないの? お弁当の味分かる?」
「よく聞かれますね。確かに我々爬虫人は歯のない種族がおり、物を食べるときは丸呑みにします。ですが、実は我々の味覚はここにありまして」
クロロックが喉を指差した。
食道で味が分かるらしい……!
不思議な。
「のどごしと共に味を楽しめる。これは猿型人類には体験できぬ味の冒険ですよ」
「そういうものなのか……!」
クロロックが得意げだ。
ちなみに、本物のカエルなら丸呑みにしてからじっとして消化するが、爬虫人は忙しいのでじっとしている暇がない。
消化の助けにするために、小石を飲み込んですり潰すんだそうだ。
「鳥みたいだな」
「鳥人の嘴がある種も同じですね。我々が彼らを真似していると言えるでしょう」
そんなふうに、爬虫人の生態の話を聞きながら歩いていると、お弁当タイムになった。
クロロックは芋を口の中にポイッと放り込むと、ごくりとひとのみ。
次にシチューを固めたものをごくりとひとのみ。
食事が終わった。
「んんー。のどごしはイマイチですが、味は濃くて素晴らしいです。体を動かすエネルギーになる味がします」
「ど、どうも」
「うめえうめえ」
俺は俺で弁当をガツガツ食った。
大変に味が濃い。
カトリナの料理は、基本的にガテン系向けだな。
ガッツリ系オンリーだ。
彼女なら、俺の世界にあったアブラヤサイニクマシマシニンニク入りのあのラーメンが好きそうだ。
「ラーメンか……」
俺の中に、もりもりとラーメンを食べたい欲求が沸いてきた。
だが我慢だショートよ……。
ラーメンのための小麦すらまだ手を付けられていないではないか……!
スープの素の方はすぐに入手できそうだが。
うぬぬぬ、理想の食にたどり着くまで、スローライフは道が長い。
「ショートが悩んでる」
「こいつがここまで悩むのは、あれだな。食い物のことを考えてるな」
「お父さん詳しい!」
「どうやら別の土地で、かなり豊かな食生活を送ってきたみたいなんだよ。そいつを再現しようと頑張ってるらしいぞ」
「そうなんだー。ショート、頑張ってね。ショートの食べてきた美味しい食事、私も食べたいな」
「ワタクシものどごしに興味があります」
「おおっ! 期待してくれるか! よーし、俺頑張っちゃうぞ。あと、多分のどごしはとてもいい……」
クロロックが期待に瞳孔を開き、喉を膨らませてクロクローと鳴いた。
爬虫人も食事を楽しむんだなあ……。
そして、お弁当の後にトコトコと歩きだすとやがて村に到着する。
俺を見て、村人たちがハッとした。
「ショートさんようこそ!」
「ブルストとカトリナもよく来たね!」
「えっ、だれ」
「クロクロー」
ここを通過してきたはずなのに認知されていないクロロック。
だが、学者である彼はそんなことは気にしないようだ。
「えっ、材木をお探しで? じゃあこちらをどうぞ……お代は後で結構なんで……。あ、運ぶためのロバと車をお貸ししますよ。ああ、返すのはいつでもいいんで……」
材木商人が揉み手をしてくる。
そこまで恐縮しなくてもいいだろう。
ブルストが微妙な顔になった。
「なあショート、なんだか下手に出られ過ぎてて気持ちわるいぞ」
「ああ。俺としてもこういう売り手が得をしない商売は好きじゃない。仮にも取引所を人間の手に取り戻した勇者としてはな」
「勇者……?」
「ごほんごほん! おほん! エンサーツとともに融資をな、融資! なので、俺は正当な取引にもこだわりがあるのだ。おい商人」
「は、はい!!」
「適正価格で買うし、ロバもレンタル料を支払おう。幾らだ」
「あ、は、はい。これだけの金額で……」
恐る恐る、俺に金額を見せてくる商人。
俺はこれを見て頷いた。
「よし、ブルスト。こいつは俺が払う。クロロックは俺にとっての畑作りの師匠でもあるからな」
「俺以外に師匠ができたのか」
「なんで寂しそうな顔するんだよ……」
ということで。
俺はこの足で、超高速で王都に戻り、取引所にある俺の口座から必要なぶんの金を引き出した。
この額の取引は、王国に気付かれるかもしれないが仕方ない。
金を持って、俺は再び飛び立つ。
そして戻ってきた。
大体一時間半ほどであっただろうか。
金をじゃらじゃら即金で払うと、商人が目を白黒させた。
「ちょ、ちょっと多いですが」
「これが王都の相場だ。俺は不正取引はしないのだ……!!」
「で、では多い分でロバをお貸しします……!」
「オマケとかもらえるのは大好きなのだ……!!」
オマケでロバと荷馬車を借りた。
だが、手に入れた材木はロバ一頭で運ぶには多い。
ということで、俺が浮遊魔法フワリで空に浮かせてロバに牽引させることにした。
クロロックが、空に浮かんだ材木を見て瞳孔をまんまるにする。
「これは凄い魔法を使っているのでは?」
「いや、そうでもない。浮かせるだけなら魔力の量しか必要ないからな。城一つ浮かせるのに比べたら、こんなもの全然大したこと無いぞ」
「いやあ……大したものだと思うんですが……」
クロロックが、フワフワ浮きながら移動する材木を見つめながら、クロクロ喉を鳴らすのだった。
「川の近くがいいですね。ワタクシ、陸棲種のカエルですが水分は多いほうがいい」
「じゃあ毎朝水汲みに行くし、その時にクロロックを迎えに行く感じでいいか」
「将来的には川の水を引いて、用水路なり水田なりを作りますからね。そうなればワタクシも家ごとこちらに来るわけで」
そういう話をしていたら、ブルストが深く頷いた。
「ちょうどいい! ショートのお陰で材木も手に入りやすくなったんだ。森の中じゃ、建築に使うための材木は乾かしづらくてな。年単位でかかっちまう。だが、村なら専用の乾燥設備があるからな。材木を買いに行くぞ」
ということで。
全員総出で丁字路村に向かうことになったのである。
今回は、クロロックが加わって四人だ。
「お弁当作ってきたよ。お芋と、シチューを固めたやつ」
「固めたシチューはどうやって食べるので?」
俺が聞くと、カトリナが実践してくれた。
「こうやってねえ、バターみたいにお芋に塗るの。削って載せてもいいよー」
「おほー、こりゃあ濃厚だなあ」
「ショート! 今食べちゃだめ!」
「ははは、ごめんごめん。クロロックも弁当食べるだろ?」
「いただきましょう」
そこで、カトリナが疑問を感じたらしい。
今まで、俺たちとクロロックは一緒に食事をしたことが無いのだ。
この爬虫人は、せっかくの辺境で、エキサイティングな昆虫食を楽しみたいと言って食事時になると森の中に消えていっていた。
「ねえ、クロロックさんってカエルみたいな人なんでしょ?」
「ええ、概ね間違っていません」
「じゃあ、食べ物は丸呑みじゃないの? お弁当の味分かる?」
「よく聞かれますね。確かに我々爬虫人は歯のない種族がおり、物を食べるときは丸呑みにします。ですが、実は我々の味覚はここにありまして」
クロロックが喉を指差した。
食道で味が分かるらしい……!
不思議な。
「のどごしと共に味を楽しめる。これは猿型人類には体験できぬ味の冒険ですよ」
「そういうものなのか……!」
クロロックが得意げだ。
ちなみに、本物のカエルなら丸呑みにしてからじっとして消化するが、爬虫人は忙しいのでじっとしている暇がない。
消化の助けにするために、小石を飲み込んですり潰すんだそうだ。
「鳥みたいだな」
「鳥人の嘴がある種も同じですね。我々が彼らを真似していると言えるでしょう」
そんなふうに、爬虫人の生態の話を聞きながら歩いていると、お弁当タイムになった。
クロロックは芋を口の中にポイッと放り込むと、ごくりとひとのみ。
次にシチューを固めたものをごくりとひとのみ。
食事が終わった。
「んんー。のどごしはイマイチですが、味は濃くて素晴らしいです。体を動かすエネルギーになる味がします」
「ど、どうも」
「うめえうめえ」
俺は俺で弁当をガツガツ食った。
大変に味が濃い。
カトリナの料理は、基本的にガテン系向けだな。
ガッツリ系オンリーだ。
彼女なら、俺の世界にあったアブラヤサイニクマシマシニンニク入りのあのラーメンが好きそうだ。
「ラーメンか……」
俺の中に、もりもりとラーメンを食べたい欲求が沸いてきた。
だが我慢だショートよ……。
ラーメンのための小麦すらまだ手を付けられていないではないか……!
スープの素の方はすぐに入手できそうだが。
うぬぬぬ、理想の食にたどり着くまで、スローライフは道が長い。
「ショートが悩んでる」
「こいつがここまで悩むのは、あれだな。食い物のことを考えてるな」
「お父さん詳しい!」
「どうやら別の土地で、かなり豊かな食生活を送ってきたみたいなんだよ。そいつを再現しようと頑張ってるらしいぞ」
「そうなんだー。ショート、頑張ってね。ショートの食べてきた美味しい食事、私も食べたいな」
「ワタクシものどごしに興味があります」
「おおっ! 期待してくれるか! よーし、俺頑張っちゃうぞ。あと、多分のどごしはとてもいい……」
クロロックが期待に瞳孔を開き、喉を膨らませてクロクローと鳴いた。
爬虫人も食事を楽しむんだなあ……。
そして、お弁当の後にトコトコと歩きだすとやがて村に到着する。
俺を見て、村人たちがハッとした。
「ショートさんようこそ!」
「ブルストとカトリナもよく来たね!」
「えっ、だれ」
「クロクロー」
ここを通過してきたはずなのに認知されていないクロロック。
だが、学者である彼はそんなことは気にしないようだ。
「えっ、材木をお探しで? じゃあこちらをどうぞ……お代は後で結構なんで……。あ、運ぶためのロバと車をお貸ししますよ。ああ、返すのはいつでもいいんで……」
材木商人が揉み手をしてくる。
そこまで恐縮しなくてもいいだろう。
ブルストが微妙な顔になった。
「なあショート、なんだか下手に出られ過ぎてて気持ちわるいぞ」
「ああ。俺としてもこういう売り手が得をしない商売は好きじゃない。仮にも取引所を人間の手に取り戻した勇者としてはな」
「勇者……?」
「ごほんごほん! おほん! エンサーツとともに融資をな、融資! なので、俺は正当な取引にもこだわりがあるのだ。おい商人」
「は、はい!!」
「適正価格で買うし、ロバもレンタル料を支払おう。幾らだ」
「あ、は、はい。これだけの金額で……」
恐る恐る、俺に金額を見せてくる商人。
俺はこれを見て頷いた。
「よし、ブルスト。こいつは俺が払う。クロロックは俺にとっての畑作りの師匠でもあるからな」
「俺以外に師匠ができたのか」
「なんで寂しそうな顔するんだよ……」
ということで。
俺はこの足で、超高速で王都に戻り、取引所にある俺の口座から必要なぶんの金を引き出した。
この額の取引は、王国に気付かれるかもしれないが仕方ない。
金を持って、俺は再び飛び立つ。
そして戻ってきた。
大体一時間半ほどであっただろうか。
金をじゃらじゃら即金で払うと、商人が目を白黒させた。
「ちょ、ちょっと多いですが」
「これが王都の相場だ。俺は不正取引はしないのだ……!!」
「で、では多い分でロバをお貸しします……!」
「オマケとかもらえるのは大好きなのだ……!!」
オマケでロバと荷馬車を借りた。
だが、手に入れた材木はロバ一頭で運ぶには多い。
ということで、俺が浮遊魔法フワリで空に浮かせてロバに牽引させることにした。
クロロックが、空に浮かんだ材木を見て瞳孔をまんまるにする。
「これは凄い魔法を使っているのでは?」
「いや、そうでもない。浮かせるだけなら魔力の量しか必要ないからな。城一つ浮かせるのに比べたら、こんなもの全然大したこと無いぞ」
「いやあ……大したものだと思うんですが……」
クロロックが、フワフワ浮きながら移動する材木を見つめながら、クロクロ喉を鳴らすのだった。