トリマルを頭に載せて、丁字路の村にやってきた。

「やあ勇者様!」

「これはどうも勇者様」

「我々清く正しく生きていますよ勇者様」

「今日は機嫌悪くないですよね勇者様」

 諸君、俺を見てビクビクするのはやめるんだ。
 村人はすっかり改心しており、亜人がやって来てもイジワルをすることがなくなったそうだ。
 村の子どもは親に、「悪いことをすると勇者様がやってくるよ!」と教えられて育つようになってるらしいな。

 おい!
 いや、しかも効果てきめんというのが腹が立つな。

 しかし……俺の心は広い。

「芋がいい感じで育ってきたんで、ちょっと作物を増やしたいんだが。あとは追加の卵を」

「はいはい」

 取引所で、俺が持ってきた猪の毛皮と作物の苗を交換する。

「これは?」

「別の種類の芋ですよ」

 また芋である。
 だが、話を聞くとサツマイモの系統らしい。
 なるほど、荒れ地でも育ちそうだ。

「ではもらっていく。あとは、うちのトリマルがオスかメスか分かるか?」

「ええ……? ちょ、ちょっと待っておくれよ」

 取引所のおばちゃんが困った顔をした。
 しばらくしてから、神経質そうなおっさんが走ってくる。

「この人がヒヨコ鑑定魔法の専門家だよ」

「私に任せなさい」

「そんな魔法があるのか。ニッチ過ぎるかと思ったが、よく考えたら卵を産むメスかそうでないオスかは重要だもんな」

 おっさんは、目を閉じてふぬぬぬ……と唸ってからカッと目を見開いた。

「オス!」

「なんだって!? トリマル、お前、男の子だったのか」

「ピョ」

 例えオスであろうと、我が子(っぽい鳥)であることに違いはない。
 俺の愛情は変わらないが、メスがいないと困るな。

「じゃあ、メスのヒヨコを何匹か分けてあげますよ勇者様」

「本当か!! 恩に着る……!!」

 ということで、俺はトリマルのお嫁さんを三羽と、芋の苗をもらってきた。

 育てているジャガイモっぽい芋は、順調に生育してきている。
 もう少ししたら収穫できるんじゃないか。

 そことは違うところの畑に、サツマイモっぽい芋を植えた。

「ショート、今度は何をもらってきたの?」

「こんなで、こんなふうで、こんな感じの芋の苗だ」

 すると、カトリナが目を丸くした。

「す、すごい! それってガガガイモじゃない! とっても美味しいお芋なのよ!」

「なんだって!?」

 カトリナ曰く、俺が育ててる芋は野生の芋なので、色々処理しないと食えないのだそうだ。
 それに食味もそこまで優れていない。
 一番いいところは、お金をかけずに手に入れられること。

 それに対してガガガイモは、れっきとした作物。
 荒れ地でも育ち、芋は甘い。

「ああ……まさかガガガイモがまた食べられるようになるなんて。夢みたい……」

 うっとりと呟くカトリナなのだった。
 そして彼女はここで、俺の頭の上にいるトリマルが三羽増えていることに気付く。

「あれ? ショート、その頭の上にいるのは……」

「ああ、トリマルがオスだったと分かったからな。お嫁さんを三羽もらってきた。ハーレムだぞ」

「はーれむ?」

 カトリナが首を傾げた。
 おっと、純情なカトリナには分からなかったな。

 俺はカトリナ一筋だが、世の中は色々ある。
 男一人に女たくさんのハーレムとか、女一人に男たくさんの逆ハーレムとかがある。

 だが、そんな知識を純情なカトリナに教える必要はあるまい。

「これで卵をいっぱい産んで貰えるだろう。それにトリマルがいれば、ホロロッホー鳥が増えるぞ」

「それは素敵ね!」

 ヒヨコも大所帯になってきたことだし、そろそろブルストが作ってくれた鳥舎を活用する時である。

 ブルストにその話をすると、彼は満面の笑みになった。

「そうか、ついに俺の自信作を使う時が来たか!! これはな、家側は網を張ってあって陽の光が入るようになっていてな。だが獣の類が破れないよう、こことここを分厚く……」

 専門家の説明が始まってしまった。

 鳥舎の中に藁を敷き、水や餌を設置してからヒヨコを話すと、ぴよぴよいいながら走り始めた。

「そら、トリマル」

「ピョ」

「お前の家だぞ」

「ピョピョ」

 俺を振り返るトリマル。
 
「うっ、つぶらな瞳で俺を見ないでくれ! 別れが辛くなる……!」

「鳥舎のすぐ前がショートの部屋じゃない」

 カトリナに突っ込まれて冷静になった。
 そうか、窓から顔を出せばいつでもトリマルに会えるな。
 いかんいかん、トリマルに感情移入しすぎていたようだ。

 これでは農業と畜産をやっていこうという人間としてどうなのか。
 いや、だが我が手で卵から孵したヒヨコはやはり特別……。

「ピョー」

「よし、トリマル。二日に一回は俺と一緒に寝ような」

「ピョ!」

「過保護なお母さんねえ」

 カトリナが苦笑した。

「この子たちを鳥舎に入れたら、ガガガイモを植えるんでしょう? 手伝うよ、ショート」

「いいのか? オーガは作物作ったりが苦手じゃなかったっけ」

「いつまでも苦手だとか言ってられないもん。ショートだって、畑を作ったり卵を孵したり、初めてのことばかりだったんでしょ? 私だって、たくさん初めてのことに挑戦していかなきゃ!」

 ガッツポーズをするカトリナが大変可愛い。
 結婚したい。

 彼女は人間に近い見た目のオーガ族なんだが、短い角が二本、額から生えている。
 これが、彼女の気持ちが高ぶるとピンク色になるんだな。

 ということで、角をピンクに染めたカトリナは大変やる気なのだ。

「よーし、それじゃあ二人で芋を植えよう! これはジャガイモと違うから、俺も知識チートができない……」

「ちしきちーと?」

「なんでもないぞ」

 新たな畑を用意せねば。