「お母さん、見てみて! お母さんのお顔描けた!」
「あら、可愛いわね。ありがとう」
お母さんは絵を一目見るとすぐに踵を返し弟の七五三の支度を進める。
「ちゃんと見てよ、ほら! 上手?」
「ちょっと忙しいから待ってちょうだい。やっぱりまさと、似合ってるわね」
そういってお母さんは、弟の頭をなでる。
私は小さなころから、弟が嫌いだ。
お父さんがある日突然いなくなった。なんとなく、離婚だと察した。
「お母さん、大丈夫?」
お母さんの顔色は日に日に悪くなっていく。
「大丈夫よ、ありがとう」
大きくなるにつれ、経済的な負担を知った。
たった1人で2人を育てるなんて、とても大変なことをしてくれている。私はそんなお母さんが大好きだ。
(語り視点)
「ねむー……」
朝7時、乱暴に目覚ましを止める
何時間寝ても眠くなってしまうのはいつものこと
彼女はりさ。昨夜、特別な力を持った子
まだ、気づいてないみたいだけど
「バカ姉!早く起きろよ」
バタッと扉を開けて罵声を浴びせるのは彼女の弟、まさと
「別に、まだ時間あるじゃん」
彼女はなかなか起きない
「今日は校外学習だろうが。もう間に合わないんじゃね?」
「は?え!マジ?!」
がばっと布団から起きると、まさとは笑い始めた。
「ばっかみてぇ」
彼女の一日はここから始まる
(りさ視点)
「い、いってきまーす!」
もーー!すっかり忘れてた。
校外学習なんて、いっそ今度になっちゃえばいいのに…
「間に合ってー!」
私は全速力で走る。
5分くらい経ったかな、ようやく学校についた。
バス、まだある!
時刻は6:30。出発は7:10だったはずだ。
「なーんだ、全然間に合ってるじゃん…?」
待てよ…私はいつも7:00に目覚ましをつけてる、はず
じゃあなんで…?
(語り視点)
彼女に与えられた力。
それは、言葉にした願いが叶ってしまう。というものだ
家につくなり彼女はスマホを取り出すと、目覚ましのアプリを開いた。
「やっぱり、7:00にセットされてる…」
彼女は顔を真っ青にしたり意味もなく周りを見回したり、混乱し始めているのが明らかだ。
「もしかして私…」
でも、そんな彼女の中にもひとつの可能性が浮かんでいる。
「もし今すぐお金がもらえたら…」
独り言のように呟く。
しばらくの沈黙ののち、「そんなのありえないよね」と一人で納得。
しかし次の瞬間、コンコンとドアをノックする音が響いた。
「ちょっとりさ、おつかい行ってきてくれない?余ったらお小遣いにしてあげるから」
そういって5000円を渡した母親は、せわしない様子で部屋をあとにした。
彼女はうつむいている。
その表情は笑ってるのか途方にくれているのか、私にはわからない。
(りさ視点)
つまり私は、とんでもない力を手にしてしまったらしい。
もしかしてこの力を使えば……
やな発想が頭を埋め尽くす。
ううん、今まで通り能天気に過ごしてればいいだけ。いつもと変わらないはず、うん!
昼まで、授業をなんとなく聞いて過ごした。もちろん頭はあのことでいっぱい
人は欲望に負けてしまうもの、勝たなければいけない
分かっていても難しい…
まぁいいや、今日の給食なんだろ~
献立表をちらっと覗く
「げっ、梅干し…」
一番嫌いなメニューだ…
もしかしたら…なくせる?
私の脳裏に一つの案がよぎる。
給食残さないためにも、やるしかない!
「梅干しが給食からなくなりますように」
次の瞬間、献立表から梅干しの文字が消えていた。
私はひそかにほくそ笑んだ
(語り視点)
「りさ、おかえり。今日テスト返ってきたんじゃない?」
あれから数週間が経過し、定期テストを終えた。
もちろんのこと彼女は勉強なんて一切していない。
「うん!見て、一位だったよ!」
「すごいじゃない、よくやったわね」
頭をなでられると、とても嬉しそうに笑った
(褒めてもらえたの、久しぶりだったな…でも私の力じゃないんだ、ごめんなさい)
彼女はテストの前に、「テストで一位になれますように」「誰も違和感を感じませんように」とつぶやいていたよう。
「…母さん。俺も一位だったよ、テスト」
「まさとも、ほんとにすごいわね」
母親はまさとにたいしても、まるで自分のことのような嬉しさを覚えていた。
まさとは照れくさそうに笑っている。
それを見る彼女は、口こそ笑っているものの目は冷徹そのものだった。
(りさ視点)
昔からまさとは成績優秀で誰からも褒められる優等生だった。ついでに性格も顔もいいと、近所のおばさんたちから好かれていた。
私のひどい点数を見るたびお母さんは悲しそうな顔をしていた。
そんな顔しないで、これでも頑張ってるんだよ
怒鳴り付けたりしないのはお母さんの優しさだったのはわかってたけど、それがむしろ私を辛くしていた
「◯にはできるのになんであんたには…」
そんな眼差しを常に感じていた。
そのうち私はそんな弱い自分を隠すように、能天気な性格を演じるようになった。
お母さんは私たちを、女手一つで育ててきてくれたんだ
私たちは苦しい生活をしてる。誰よりも、お母さんが
なら、解放してあげなきゃ。娘として当然のことだと思うんだ。
きっとお母さんは私のことなんて育てたいなんて思ってない。優秀な弟がいるから
なら、私が弟の役目を果たせばいい…
それに、学費も生活費も1人分減るんだよ。お母さんもきっと喜んでくれる。
お母さん、幸せを得るためには辛さも必要なんだよ?
まさと、ごめんね。お母さんのために……私のために。
「弟の存在を、この世からなくしてください」
私が初めての子供だもんね、お母さん
(語り視点)
「りさ、ごはんできたわよー」
朝七時、母の声と同時に鳴る目覚ましを乱暴に止める。
「さっさと食べちゃわないと、遅れるわよ」
「はーい」
「りさ、ごめんね、兄弟もいなくて、1人にさせちゃって」
「ううん! お母さんがいるから私、幸せだよ」
彼女は精一杯に笑ってみせる。
「ありがとう。学校頑張ってきてね」
「うん!」
彼女はあれから、どんなことでも叶えて生きてきた。
もともとの自分の実力など忘れたように。
(まさと)「そろそろ潮時かな」
「あら、可愛いわね。ありがとう」
お母さんは絵を一目見るとすぐに踵を返し弟の七五三の支度を進める。
「ちゃんと見てよ、ほら! 上手?」
「ちょっと忙しいから待ってちょうだい。やっぱりまさと、似合ってるわね」
そういってお母さんは、弟の頭をなでる。
私は小さなころから、弟が嫌いだ。
お父さんがある日突然いなくなった。なんとなく、離婚だと察した。
「お母さん、大丈夫?」
お母さんの顔色は日に日に悪くなっていく。
「大丈夫よ、ありがとう」
大きくなるにつれ、経済的な負担を知った。
たった1人で2人を育てるなんて、とても大変なことをしてくれている。私はそんなお母さんが大好きだ。
(語り視点)
「ねむー……」
朝7時、乱暴に目覚ましを止める
何時間寝ても眠くなってしまうのはいつものこと
彼女はりさ。昨夜、特別な力を持った子
まだ、気づいてないみたいだけど
「バカ姉!早く起きろよ」
バタッと扉を開けて罵声を浴びせるのは彼女の弟、まさと
「別に、まだ時間あるじゃん」
彼女はなかなか起きない
「今日は校外学習だろうが。もう間に合わないんじゃね?」
「は?え!マジ?!」
がばっと布団から起きると、まさとは笑い始めた。
「ばっかみてぇ」
彼女の一日はここから始まる
(りさ視点)
「い、いってきまーす!」
もーー!すっかり忘れてた。
校外学習なんて、いっそ今度になっちゃえばいいのに…
「間に合ってー!」
私は全速力で走る。
5分くらい経ったかな、ようやく学校についた。
バス、まだある!
時刻は6:30。出発は7:10だったはずだ。
「なーんだ、全然間に合ってるじゃん…?」
待てよ…私はいつも7:00に目覚ましをつけてる、はず
じゃあなんで…?
(語り視点)
彼女に与えられた力。
それは、言葉にした願いが叶ってしまう。というものだ
家につくなり彼女はスマホを取り出すと、目覚ましのアプリを開いた。
「やっぱり、7:00にセットされてる…」
彼女は顔を真っ青にしたり意味もなく周りを見回したり、混乱し始めているのが明らかだ。
「もしかして私…」
でも、そんな彼女の中にもひとつの可能性が浮かんでいる。
「もし今すぐお金がもらえたら…」
独り言のように呟く。
しばらくの沈黙ののち、「そんなのありえないよね」と一人で納得。
しかし次の瞬間、コンコンとドアをノックする音が響いた。
「ちょっとりさ、おつかい行ってきてくれない?余ったらお小遣いにしてあげるから」
そういって5000円を渡した母親は、せわしない様子で部屋をあとにした。
彼女はうつむいている。
その表情は笑ってるのか途方にくれているのか、私にはわからない。
(りさ視点)
つまり私は、とんでもない力を手にしてしまったらしい。
もしかしてこの力を使えば……
やな発想が頭を埋め尽くす。
ううん、今まで通り能天気に過ごしてればいいだけ。いつもと変わらないはず、うん!
昼まで、授業をなんとなく聞いて過ごした。もちろん頭はあのことでいっぱい
人は欲望に負けてしまうもの、勝たなければいけない
分かっていても難しい…
まぁいいや、今日の給食なんだろ~
献立表をちらっと覗く
「げっ、梅干し…」
一番嫌いなメニューだ…
もしかしたら…なくせる?
私の脳裏に一つの案がよぎる。
給食残さないためにも、やるしかない!
「梅干しが給食からなくなりますように」
次の瞬間、献立表から梅干しの文字が消えていた。
私はひそかにほくそ笑んだ
(語り視点)
「りさ、おかえり。今日テスト返ってきたんじゃない?」
あれから数週間が経過し、定期テストを終えた。
もちろんのこと彼女は勉強なんて一切していない。
「うん!見て、一位だったよ!」
「すごいじゃない、よくやったわね」
頭をなでられると、とても嬉しそうに笑った
(褒めてもらえたの、久しぶりだったな…でも私の力じゃないんだ、ごめんなさい)
彼女はテストの前に、「テストで一位になれますように」「誰も違和感を感じませんように」とつぶやいていたよう。
「…母さん。俺も一位だったよ、テスト」
「まさとも、ほんとにすごいわね」
母親はまさとにたいしても、まるで自分のことのような嬉しさを覚えていた。
まさとは照れくさそうに笑っている。
それを見る彼女は、口こそ笑っているものの目は冷徹そのものだった。
(りさ視点)
昔からまさとは成績優秀で誰からも褒められる優等生だった。ついでに性格も顔もいいと、近所のおばさんたちから好かれていた。
私のひどい点数を見るたびお母さんは悲しそうな顔をしていた。
そんな顔しないで、これでも頑張ってるんだよ
怒鳴り付けたりしないのはお母さんの優しさだったのはわかってたけど、それがむしろ私を辛くしていた
「◯にはできるのになんであんたには…」
そんな眼差しを常に感じていた。
そのうち私はそんな弱い自分を隠すように、能天気な性格を演じるようになった。
お母さんは私たちを、女手一つで育ててきてくれたんだ
私たちは苦しい生活をしてる。誰よりも、お母さんが
なら、解放してあげなきゃ。娘として当然のことだと思うんだ。
きっとお母さんは私のことなんて育てたいなんて思ってない。優秀な弟がいるから
なら、私が弟の役目を果たせばいい…
それに、学費も生活費も1人分減るんだよ。お母さんもきっと喜んでくれる。
お母さん、幸せを得るためには辛さも必要なんだよ?
まさと、ごめんね。お母さんのために……私のために。
「弟の存在を、この世からなくしてください」
私が初めての子供だもんね、お母さん
(語り視点)
「りさ、ごはんできたわよー」
朝七時、母の声と同時に鳴る目覚ましを乱暴に止める。
「さっさと食べちゃわないと、遅れるわよ」
「はーい」
「りさ、ごめんね、兄弟もいなくて、1人にさせちゃって」
「ううん! お母さんがいるから私、幸せだよ」
彼女は精一杯に笑ってみせる。
「ありがとう。学校頑張ってきてね」
「うん!」
彼女はあれから、どんなことでも叶えて生きてきた。
もともとの自分の実力など忘れたように。
(まさと)「そろそろ潮時かな」