カレンダーを見て今日が一周年記念日だったと
思い出した僕は律希に贈るプレゼントを
探すために家を出ようとして
雨が降っていることに気付いた。

そういえば、律希と出会った日も
雨が降っていたことを思い出した。

あれは、二年前の雨が酷かった
土曜日のことだった。

原因は忘れたけど僕は母さんと
喧嘩をして財布とスマホだけ持って
傘を持たずに家を飛び出した。

雨に濡れながら俯いて歩いていた時
律希にぶつかったのがきっかけだった。


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***二年前***

『すみません』

気持ちが沈んでいた僕は
聞こえているのか怪しい
小さな声で謝罪した。

『俺は大丈夫だけど
君が大丈夫じゃなさそうだね』

ぶつかられたのに“怒”の感情を
一瞬も出さないで僕の心配をしてくれた。

“色”を視ればわかる。

母親とは正反対だった。


そんな彼は僕の身長に合わせて少し屈み、
傘を半分こちらに傾けてくれている。

名前と学年を聞いた。
 
『こんなこと言うと怪しい奴だと
思われそうだけ、俺の家に来ない?』

名前は《来嶋律希》。

学年は一個上の高校二年生。

『あの、でも、』

いい淀んだ理由は
別に彼を警戒していたわけじゃなく
さっきぶつかった見ず知らずの
高校生を家に呼ぶのは
どうなんだと思ったんだ。

『ご家族に迷惑では?』

一応訊《き》いてみる。

『一人暮らしだからその心配はいらないよ。

それに、こんな雨の中傘もささないで
外にいるってことは
訳ありなんじゃないか?』

僕を誘った時点で家族が不在か
一人暮らしだろうと予想はしていた。

そして、彼に邪な感情がないのも
下心がないのもわかっていた。

僕は他人《ひと》の感情が“色”で
視(み)えるからその人の感情が
リアルでわかる。

『そんなに警戒しなくても
本当に何もしないよ?』

返事をしない僕が
警戒していると思ったらしい。

『いえ、あなたを警戒している
わけではなくてですね……

さっき会ったばかりの僕に
何でそこまで親切に
してくださるのかと思いまして……』

単なる疑問だった。

『理由はわからないけど
そんな悲しそうな表情《かお》をした君を
このまま帰してしまったら後悔する気がして……

それに、そのままだと
風邪をひいてしまうかも知れないだろう?』

この人は凄くいい人だ。

『じゃぁ、お言葉に甘えて……』

この一年後、僕達は恋人同士になった。

律希三年・僕が二年生の夏のこと。