ザアザア降りだった雨は少し勢いが弱まっていた。

 傘を差して住宅街を歩く。東京のこの家に引き取られてからまず驚いたのは、家の小ささと密集具合だった。今のこの家は東京の中では充分大きな部類に入るが、佳純の昔の家はその倍以上はあった。そして空気の淀みにも驚愕した。アリの大群のようにひしめく東京の人々は、この狭苦しい環境に気でも狂わないのだろうか。ここは郊外なのでいくらか静かだが、都心部など佳純にはとうてい行けるはずもない。夕莉と翠はおそらく東京出身だろう。どこか孤高な感じがするのは東京人の特徴だ。

 佳純は、まだ自分の出身を話せていなかった。本当は、話すつもりもないのだが。
 
 家の中に入り、聡子から診察代をもらうと、またアイスを食べた。子どもが六人もいた佳純の家は、誰一人として誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントをもらったことがなかった。六人分の出費は痛いからだろうと、今なら納得がいくが、あの頃はアイスを食べることが唯一の娯楽だった。

 夕飯は、佳純の好きな生姜焼きだった。

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