ボランティア部は、デイケア組の時間割に合わせて午後の授業を立て替えて行われるため、夕莉たちが帰ったあとには、その分の授業を巻き返さなければいけない。つまりほかの生徒たちより帰りが遅くなるのだ。放課後に部活動を行っている者と同じ時間帯に帰るので、週に一度このような活動をするのは、その名の通りボランティアだった。

 内海夏央(うつみ なつお)からこのことを聞かされた夕莉は、彼のとうてい親切そうな人柄には見えない鋭い目つきを見て、どうしてこんなことをしているのだろうと不思議に思った。

「俺、下の名前、夏央な」

 彼が自分の名前を教えたので、夕莉も簡単に自己紹介をした。

「青花ってあまり見ない名字だから、すぐに覚えたな」と夏央が笑うと、意外と愛嬌のある表情になった。翠が言っていた「デイケア組の名簿でも渡されたんだろ」という台詞を思いだし、問うと、夏央は、

「ああ、そうだよ。一通り覚えてくださいって」と答えた。

 離れたグループにいる翠を見る。兄は、黒髪ショートヘアのすらりと背の高い女子生徒と、何やら話し込んでいる。夕莉の視線に気づいたのか、夏央が、
「あれは姉の冬華(ふゆか)」と指を差した。そういえばスタイルのよさが似ていると思っていると、

「お前ら双子だろ? 俺らもだよ」と、夏央から意外な共通点が出された。
「どっちが上なの?」

 兄妹構成を聞かれているのだと気づいた夕莉は、「兄の翠のほうです」と簡潔に答えた。

「ふうん。夕莉が妹で、翠が兄か。こっちは姉と弟だし、双子同士だな」

 さらっと下の名前で呼ばれたが、嫌な感じはしなかった。

「な、夏央先輩」

 自分も思い切って名前で呼ぶと、夏央は特に表情を変えずに「ん?」と視線を合わせた。

「先輩たちも、同じ時期に、具合が悪くなったりしませんか?」

 これは、夕莉が前から誰かに問いかけたかった質問だ。

 翠と夕莉はそれぞれ喘息と頭痛を抱えているため、上手く身体を動かせない。一般クラスにいる夏央たちはどうなのだろうと、今まで周りに双子がいなかった夕莉は、前から感じていた疑問をぶつけることにした。

「私たち、大体同じタイミングで体調を崩すんです。あの時は体育の授業だったから、私だけでしたが……」
「翠のほうは運動できるのか?」
「あ、はい。お兄ちゃんは運動している時は調子がいいんです。激しい運動はできないけど。私の場合は、身体を動かすだけで頭が痛くなっちゃって。たいていは季節の変わり目と、梅雨の時期に身体が弱ります」

 夏央は「へえ」と興味深そうにつぶやいた。そして「俺らはめったに風邪ひかないからなあ」と頭を掻いた。夕莉は「……丈夫なんですね」としか返せなかった。

「双子は学問的にもまだまだ解明されていないことが多いから、謎だな。お前らのそれも、何か通じ合っていたりして」

 夏央は少し楽しそうに言った。自分と同じ双子という存在がいたことが嬉しいのは、どうやら夕莉だけではないらしい。

「一卵性の人たちは、通じ合ったりするんでしょうか」
「どうだろうな。あまり自分と似ているのも、嫌な感じがするかもしれないな」

 夕莉たちは二卵性で、性別が違う。今まで自分の世界には翠しかいなかったが、佳純や夏央たちと出会ったことで、何かが変わるかもしれないことを、夕莉は直感していた。

 別グループのほうで朗らかな笑い声が起こった。佳純が口に手を当てて、上品に笑っている。ボランティア部が、何か洒落た冗談でも言ったのだろう。
 また別のグループにいる翠は、夏央の姉である黒髪ショートヘアの女子生徒――冬華と、ぴったり寄り添って、ずっと何かを話している。

 ふいに胸の奥を、じりじりとした日焼けのような痛みが走った。嫉妬だろうか。だとしたら自分は相当嫌な女だ。

   ○