田畑に雪が舞い落ち、冷たく澄んだ空気の中、灯りの灯った一軒の家が視界に入った。

更に進むと、車が一台だけ薄暗い排気ガスと田舎のこの時間に少し煩すぎた音をあげていて、今にも乗り込もうとする人影が見えた。…彼女だった。

(はる)!!」

振り向く彼女の表情は、少し硬く強張(こわば)っていた。

「どうしてよ…」

「なにがさ」
僕は、拒絶(きょぜつ)する彼女を力強く抱きしめた。
彼女の小さな身体は、小刻みに震えていた。

「だから靴…片方脱げてるし」

「ちょっと身軽になった」

「霜焼けになるよ…?」

「それは…あとで考える」

「馬鹿な人。…考え無しな、あなたのことが嫌いです」

「そっか。僕は君が好きだ」

「…話聞いてるの?ズルいって」

「お互い様でしょ」

一羽の鶴が、声を上げながら羽ばたいていく。

腕の中にいる彼女の温もりを感じながら、今飛び立ったあの鳥は、夢に出てきた赤い目の彼だったんじゃないか。そんなことを心の中でつぶやいた。