わざとこの作品を見ないようにしていた。それでも好奇心はうずく一方で、ついに先週、京志郎とともに映画館で観てきたばかりだ。

何も言えなかった。映画館を出たあとに感想を語らう予定で予約していた、半個室タイプのカフェでは、別れ話を切り出すカップルよりもはるかに重く沈んでいた。撮影現場を生で見届けた京志郎でさえ、何時間もため息しか吐けなかった。

ずっと痛かった。

彼女がアオイとして叫び散らしたあの苦痛は、結局何の解決もされなかった。映画では、『わたしは、まだ、このままでいいや』と彼女がつぶやいて終わってしまう。あきらめのような、執着のような、けれどたしかに異質な情を匂わせて。

あれは、台詞だったのか。彼女の本音だったのか。


――ふつうに見えるように自分を慣らしただけですよ。


そう言っていた2年前とは、ちぐはぐしている。共感もする。自分の感情ほど、慣れないものはない。

だから山ほど後悔する。だから、生かされている。

いずれ、ほとぼりは冷めていく。彼女の存在が忘れ去られていく。それに慣れることはない。認めることすらできない。そんなの、させない。

これを愛と呼べなくなる日が来ても、俺は好きにやっていくよ。



「またな、ひさ子」



裏路地を通り抜けた。ちょうど高校生らしき男女に出くわした。大げさにびっくりされる。あ、バレたかも。

カップルか、兄妹なのか、おんなじ大きさに口を開けて、おんなじポーズで固まった。どうしようかな、目立つのはちょっとな。裏路地に引き返そうとすれば、急にぐっと押し迫られた。



「あ、雨ヶ谷丈!?」

「ですか!?」



テンション感までおんなじだ。しかも小声で確認してくれて、配慮まであるときた。いっそ感心する。

マスクをずらしてやった。ふたりそろって身を反らし、噛みしめる。ほんと仲良しだな。



「ヤクザくん見てます!」

「ああ、ありがとう」

「握手してください!」



若者は元気がいい。圧倒されながらも、握手に応じる。

熱愛報道で一度評判が落ちてしまったものの、『星のない夜』の最終回の放送で、逆転サヨナラホームラン。ハッピーにもバッドにも転びきれないエンディングが、特に原作ファンに受けがよかったのが功を奏した。

まったくテイストの異なる『1のAのヤクザくん』は、王道路線を行き、最高のハッピーエンドが確約されている。薬として癒してくれたし、毒としても、俺を戒めてくれた。

きっと、俺は、死ぬまでこうなんだろう。



「先週の、愛の告白しびれました!」

「あれ、アドリブって聞いたんですけど、もしかしておひいちゃ――」



しっ、と口に指を添わせる。不敵にほほえんでみせた。



「ご想像にお任せします」



ごめんな。この話の続きは、また今度。