「ミズキ先輩、報告、あります」

何機もあるタワーのエレベーターのうち、一機だけが地下にある
EARTH POOLのフロアに
到着出来る。

この一機も
表のエントランスホールから
見えるエレベーターホールからではなく、
エントランスのエスカレーターが
クロスする下、
ウオールの後ろにある
入り口から入る
シークレットホールから、
下にのみ
下がるエレベーターで
降りるのだ。

「何、タムラさ、ん?なの、、」

丁度 ミズキ先輩がさ、電話で
非常階段に隠れたのを
見計らってさ、声をかけたよ。

ミズキ先輩も、ドレッシー。

このシークレットホールにはさ、
ヒルズヴィレッジ所有者だけが
使えるエレベーターがあって、
地下からヘリポートまで
ワンタッチ直通で移動する。

って、課長から今日
初めて聞いたよ。

要するにさ、万能エレベーターを
知っている人間は、
旧財閥になんらかの関係者よ。

「タムラさん、貴女、何が?」

ミズキ先輩がさ、片言になって
わたしの事を凝視よ。

「さっき、パウダールームで、
ゲストに切られ、ました、」

今回はこの地下にだけ降りる
エレベーターへゲストを
誘導するからさ。
派遣スタッフに、ミズキ先輩が
レクチャーしていたわけよ。

「切られた!!大丈夫なの?!
ケガしてるの!ゲストって!」

矢継ぎ早に 質問されるのを、
今回は髪だけで 問題ないと、
アサミは告げて、それよりも
自分の身なりを 説明する。

「先輩、わたし、私情でちょっと
素性が知られないよう、してま
して、、。髪をスタイリストさん
が機転で、切ってくれたんです、
けど。ちょっと、不味くて、、」

非常階段で、腕を組みながら、

「今の姿が貴女の本来って事?
もう、何で 今日みたいな
忙しい時に、もう!、、ん、
じゃあ、いっそ、タムラさん。
貴女、予定の裏方じゃなく、
ヘルプ要員として臨時派遣された
体ね。サブファシリテーター
として、私のサブしなさい。
メインで 会場に居てくれたら、
私も動けるから助かるわ。
い いわね。問答無用でよ!」

ミズキは、アサミにいつもより
赤めのルージュをした口を
弓なりにする。
容赦なく、
無知ぶりされたよ!目立っのは、

「あの、出来たら、バックにし」

「貴女ね。解ってるでしょ!
いつもと真逆なドレスにメイク!
髪型も違うから、別人。
話し方と声でタムラさんって
判るぐらいで、立ち方も違う。
そんな貴女、どうみても、表で
会場を動かす人間にしか見えない
でしょ!華あり過ぎよ!いい?」

私のサブなんて、お手の物で
出来るわよねと、
アサミは 凄まれて
さっさと動けと、どやされた。

『こちら、ミズキ!上からの
使える応援がヘルプ入ります!
サブのファシリテーターで、
私の代わりに会場を廻してくれ
ます。、、ムラタさんです。』

ハンズフリーの無線でさ、
バンケットスタッフや派遣さんに
ミズキ先輩が 勝手によ、
わたしの事を連絡しするんだよ?

「ムラタ、、」

3つめの名前が、、出来たよ。
もとの配置仕事は、派遣さんに
ミズキ先輩がふってた。

アサミは地下へのエレベーターで
ドアに映る姿を見ながら降りる。

ショートカットに、本来の肌色。
『田村あさみ』に連想させない
派手なドレスと、ピンヒール。
いつものソバカスと
垂れ目メイク、瞳を小さくする
コンタクトも、眼鏡もない。

ショートカットの『アザミ』と
『アサミ』を別人にするため、
敢えて選んだドレスメイク。

その代わりさ、
スタッフ用マスカレードを
顔につけてるわけよ。

『話し方と声でタムラさんって
判るぐらいで、立ち方も違う。』

もとは、社交ダンスをしてて、
背筋が伸びてるのを、
『田村あさみ』は、背中を
丸め気味に歩く。

「ならさ、話し方をもどし
ますよ。ミズキ先輩。」

エレベーターがEARTH POOLに
着いた。

『先ほどご紹介頂きました、
ムラタです。ミズキさんの
サブで会場メインにヘルプ入り
ますので、よろしくお願いします
ショートカットの、スパンコール
カクテルドレスです。では!』

アサミはそう、
ハンズフリー無線に、入って
スタッフに挨拶をする。

そして
足早に、受付の同僚お嬢さん達に
スッと会釈をすれば、
何食わぬ顔で、
EARTH POOLが 見渡せる
ガセボに入った。

バレなかったよ。

賓客や企業、種々分けて
つけられたマスカレードの面々と
時に、引き合わせて
ワインテーブルへ。

ブラックタイ・タキシードと
カクテルドレスが 回廊で
佇めば、ご挨拶にガセボへ
エスコートを促す。

楽団のリードがメインになれば
ボートから曲鑑賞にと送り出して

賓客の来場コールをしていた
ミズキの声が、

『イリョージョニスト・ケイ様、
住之江 繭子様。』

と、アサミの耳に届く。

クラバットタキシード姿のケイが
振袖姿のご令嬢、マユ嬢をさ、
エスコートして 入ってきたのが
しっかり、見えて、胸がズキンと
した気がするよ。

どちらにしても、、、
今のわたしが 誰かなんて気付か
無いと思うけど。

それに今、わたしはさ、
ファシリテーター。
会場のゲストが時間中で、
望む結果にリードしつつ、
パーティーを 有意義に廻す役目。

会場に入ってきた2人の
タイミングで、音楽が
メインタイムになったのが合図。

「ノンアルコールカクテルの
フルーツが綺麗ですよ、さ、
どうぞ あちらのテーブルで
お楽しみくださいませ。」

マスカレードの瞳を笑顔張り付け
2人に 軽く 声を掛けた。
そのまま カクテルウエイターに
グラス並ぶトレーを
促して去る。と、

妙に背中に 2人の視線を感じて、
振り向いて、
また 笑顔で会釈して
そのまま回廊を 進んだ。

何んだかさ、見られたけど。
気にして、いられない。

音楽が、ダンスにと変わると、
照明が少し暗くなって、
ガセボのシャンデリアだけが
灯る。

この 暫しの薄明かりの間に、
パートナーの手を携えて、
ダンスへ誘う。

ガセボにスポットが当たると、
そこは、仮面舞踏会。
さすが、セレブは
パートナーダンスも 嗜んでる。

『ムラタさん!オードブル周り
プレートとカトラリー、数
大丈夫そう?!失くなる前に
指示!そろそろ受付チェック!
来てないゲストを教えて!』

うあ、容赦ないよ。
一瞬イヤホンを外したくなる。

ガセボから、受付に移動して、
ふと回廊を見回す。

マユ嬢が、父親的な男性と
テーブルで話をしていた。

ケイが、いない。

「今晩は。お嬢さん。
もしかして、何方か お探しか?」

この声。そうか。シークレットの
万能エレベーターから
来たんだよね。