空を見た。白い白い雲が漂う,真っ青な空を。
そこに白い鳥が一羽,優雅に泳いでいる。何物にも邪魔をされず,ただ自由に自分の心の赴くままに。
「いいなぁ。あんな風に泳いでみたい」と思ったのもつかの間,優雅に飛ぶ鳥は,真っ白な雲に吸い込まれ姿が見えなくなった。
――まるで,私のようだな、と思った。

私は高校生になり,気持ちを新たに一歩を踏み出していた。
河川敷には,たくさんの桜が咲き誇り,きれいな並木道を鮮やかなピンクに染め上げていた。
「今日から私は,私として生きていく。3年間だけ。」
桜に向かってつぶやいた。桜の木に別に応えてほしいとは思っていない。
ただ,誰かに決心を告げておかなければ,この脆く臆病な心は砕けてしまいそうで,気づけば桜の木に話していたのだ。
瞬間,桜の木が私の声に反応するようにさざめいた。風の影響だった。
私の弱い心を後押しするような風が,私の背を押した。
同時に,桜の花々も高く舞い上がり,美しい桜吹雪が目の前を覆った。
春の麗らかな風景は,暖かな雪景色へと姿を変えた。
――――その桜吹雪の中,陽の光を浴びた君の姿が見えた。暖かな雪景色に包まれる君は,雪よりも純真無垢な心を持っているように思えた。

その姿を「きれい」だと思った。けれど,儚げで寂しげで…。