本条はそれから特に何か仕掛けてくることはなく、俺の日常は平穏を取り戻していた。

あの手の女はすぐに他に興味がいくものだ。一人の男に執着するほど暇じゃないのだろう。
そう結論づけると少し楽になった。

女に振り回されて自分を見失うのは二度とごめんだ。
俺の人生に女は必要ない。
関わるとロクなことがないのは生まれてから今日(こんにち)までで証明されている。

これからの人生は自分の知識を磨き、更に飛躍するためのもので。
望みうる最高の評価を得られるよう研鑽しなければならない。
だから女に構っているような無駄な時間はないんだ。

決意も新たに己を高めるべく、俺は知識をより一層深めるための書籍を探しに会社近くの書店へ寄っていた。

ここはワインについても料理についても沢山の専門書が置いてあるお気に入りの書店だった。
目的の書籍があるコーナーに足早に向かう。
今日はもっと専門的なものを探すつもりだ。
ワイン全般に関する書籍は相当数所持しているが、たとえば国別の、もっと詳しい書籍があれば。
フランスはもちろんだがイタリア、ドイツ、スペインと。
手始めはやはりヨーロッパで攻めたい。

専門書のコーナーへ到着すると俺は目的の書籍があるだろう棚の付近に目をやった。

そこには先客がいた。