「今日から搾りの工程に入る。交替で見守りするけん。皆、体調は万全での」

親方がそう言うと、皆は気合いの入った声で「はい!」と答えた。

そう。
搾りとは、発酵が終わった(もろみ)を搾り、原酒と酒粕に分ける上槽(じょうそう)のこと。

上槽には主に三つの方法がある。

一つ目は自動圧搾機を使う方法。
これは上部から醪を注入し、空気圧で搾り出すから安定した搾りができる。

二つ目は槽。
木製の舟型に醪を入れた袋を並べて緩やかに圧力をかけていく。
最初は醪の自重だけで落としていく。
昔ながらの方法である。

そして三つ目が袋吊り。
醪を入れた袋を吊るし、圧力はかけずに自然に落ちる雫を集める。
うちの蔵はその雫を斗瓶と呼ばれる容器に入れる。
これは最も手間がかかるやり方だ。

それぞれの方法には特徴があり、かかる圧力によって原酒に移る醪内の成分が異なってくる。
だから、元は同じ酒であっても搾り方によってその味わいも異なるのだ。

もちろん、搾りの最初から最後まででも味が違う。
最初のものを「あらばしり」、真ん中を「中取り」、最後のものを「責め」と言って、一番品質が安定しているのは中取りと言われている。

この搾りをいつするのか。
それは杜氏、つまりは親方の采配で決まる。
親方が「搾る」と言うまで搾りは行われない。